ライフサイエンス実験用共焦点レーザー顕微鏡(ライブイメージングシステム:COSMIC)が本格稼働!~細胞の重力感知機構解明を目指した細胞培養実験解析系が確立されました

公開 2022年2月18日

「きぼう」利用テーマ「細胞の重力センシング機構の解明(Cell Gravisensing)」(研究代表者:名古屋大学 曽我部正博特任研究員/名誉教授)の1回目の宇宙実験において、2021年にJAXAが新たに「きぼう」内に設置した共焦点レーザー顕微鏡「Confocal Space Microscopy: COSMIC」を用いて培養細胞を対象としたライブイメージングの技術実証を行い、世界で初めて軌道上で生細胞の2波長同時共焦点蛍光観察に成功しました。

COSMICは、従来の「きぼう」の蛍光顕微鏡で可能であった生きた細胞などの形態やそのダイナミクスの観察に加え、ひとつひとつの細胞の中の分子相互作用や細胞内シグナル伝達を2色の蛍光で同時に可視化し、空間的かつ経時的に撮影することができます。1回目の実験では、本研究が目指す細胞の重力感知メカニズムの解明に必要なCOSMICを用いた細胞培養実験解析系の技術を実証でき、後続の2回の実験での作業仮説の検証に向けた大きな一歩となりました。

本実験では、さらに、細胞の培地交換や化学固定に使用できる灌流システムである自動溶液交換器具「Automatic solution exchange system for cell culture Mark-1:Auto-Ex1」と、人工重力発生ターンテーブルを搭載した細胞培養装置「Cell Biology Experiment Facility:CBEF」を組み合わせ、微小重力環境下、ならびに、人工1g 条件下で、ヒトHeLa細胞を5日間培養する技術実証を行いました。

主な成果

  1. COSMICを地上からリアルタイムで操作することにより共焦点蛍光観察画像を取得し、データの送受信ができることを確認しました。
  2. 微小重力環境下においた細胞の2波長同時3次元イメージング観察が可能であることを確認しました。これにより、形態変化や細胞内シグナル伝達といった様々な細胞のふるまいの測定が可能となりました。
  3. COSMICステージ上の培養装置の中で培養することにより観察対象の細胞のタイムラプス撮影を行い、2波長同時共焦点蛍光画像を経時的に取得しました。すなわち、2波長同時4次元ライブイメージングが可能となりました。
  4. Auto-Ex1によって、細胞培養容器の培地や溶液交換が微小重力下で可能であることを確認し、クルー操作を大幅削減できました。

本技術を使用して2回目、3回目のミッションを更に進めます。また、本実験系で開発された要素技術は、地上の細胞培養実験の自動化技術に寄与すると考えられます。

これらの機器を用いた「きぼう」ならではの細胞の重力感知(感受)メカニズムに関する研究により、宇宙飛行士に起こる筋萎縮・骨量減少、地上での寝たきり状態での病態の予防・治療法の開発に繋がり、超高齢社会の問題解決に貢献することが期待されます。

図1 「きぼう」で使用した観察機器および細胞培養装置
  • a. ライブイメージングシステム(COSMIC)の外観写真。Leica製倒立型落射蛍光顕微鏡DMi8を一部改修し宇宙仕様にしたもの。ニポウディスク方式共焦点スキャナや高感度CMOSカメラにより、蛍光試料の高精細な三次元イメージングが可能。
  • b. 自動溶液交換器具(Auto-Ex1)の外観写真。 Auto-Ex1一度の運転で6個のDCC-T(培養容器)の培地・固定液などの灌流が可能。
  • c. 「きぼう」内にある人工重力発生ターンテーブル搭載の細胞培養実験装置(CBEF)。Auto-Ex1の培養容器ユニットを取り出し、キャニスタにセットした。キャニスタは微小重力区と人工重力区にそれぞれ取り付け、人工重力区ではターンテーブルを回転し1g の重力環境で実験した。 CBEFは、内部で2つの区画はつながっており、温湿度などのガス環境は同条件で培養できる。
動画1 星出宇宙飛行士がCOSMICにサンプルを設置している様子 ©JAXA/NASA
  •    COSMICステージ上の加温チャンバ(培養装置)には同時に2つのDCC-Tが搭載できる。
動画2 Zスキャンの様子 ©JAXA/名古屋大学
  •    ミトコンドリアと核に対する2種類の可視化プローブを発現させた接着細胞を、接着面と垂直な方向(動画画面上では奥行方向)に0.6 μm刻みでスキャンしながら2色同時共焦点観察した。ミトコンドリア(マゼンタ色)と核(緑色)を重ね合わせた連続的な画像。
動画3 タイムラプス撮影の様子 ©JAXA/名古屋大学
  •    (左図)動画2の細胞の60分間のタイムラプス観察連続画像(上:ミトコンドリア、下:核)
       (右図)3次元構築した同細胞のミトコンドリア(40 x 40 x 12 μm、30分間のタイムラプス連続画像)
図2 2色同時共焦点蛍光観察の様子 ©JAXA/名古屋大学
  •    ミトコンドリアにカルシウムイオンのプローブを発現させた細胞の2色同時共焦点蛍光観察画像。光学的に分割することにより、2波長の蛍光画像(左:FRETチャネル、右:CFPチャネル)を時間のずれなく同時に取得した。2つの画像の蛍光シグナル量を解析することによりカルシウムイオン濃度を算出する。

特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA

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