スペースデブリ・レーザーナッジのための推進力計測実験

更新 2024年12月11日

Laser Debris Removal Thrust measurement experiments by a pulsed laser for nudging space debris

実施中
研究目的 レーザーアブレーションを利用したスペースデブリ除去の可能性を、国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」日本実験棟に搭載された静電浮遊炉(ELF)を利用して検証します。
宇宙利用/実験内容 静電浮遊炉は、微小重力環境下で物体を捕捉し、位置制御、レーザー照射をすることができる装置です。本装置で、スペースデブリを模擬した金属や合金を浮遊させ、レーザー照射します。照射時のデブリの推進力を計測し、レーザー出力、照射方法とデブリから発生する推力の関係等を調べます。さらに、試料の挙動やレーザーとの相互作用から、推進のメカニズムや因子を明らかし、推力を向上させる方法を探ります。
期待される利用/研究成果 微小重力下でレーザー照射した中の模擬デブリの挙動・推力を解明することで、レーザーを利用したスペースデブリの除去の可能性や効率性を検証することができ、実用化に向けて大きく前進します。
関連トピックス
詳細

要旨

地球軌道上には膨大な数の微小なデブリが存在していて、宇宙開発の大きな障害となり深刻化しています。この問題を解決する手段の一つとして、デブリにレーザー照射し軌道変換することで除去する手法が考案されています。本実験では、「きぼう」のELFを利用することで宇宙空間を浮遊するデブリを模擬し、これにレーザーを照射し、表面を蒸発させた際に生ずる推進力を計測することで、レーザーデブリ除去法の実現可能性を探ります。さらに、試料の材質やレーザー光の波長などに依存する推進力発生の物理的なメカニズムを解明することで、より効率的にデブリを除去する方法を探ります。

実験の概要

スペースデブリは、地球周回軌道に存在する不要な人工物体であり、近年宇宙開発の活発化に伴い増加の一途をたどっています。活動中の人工衛星や国際宇宙ステーション(ISS)などに衝突すれば、設備の破壊だけでなく人命にも関わるため、宇宙開発において極めて重大な問題です。現実にデブリによると考えられる衝突痕がISSでも確認されており、事態は深刻になりつつあります。

この問題の解決するため様々なデブリの除去方法が検討されており、その一つとして、レーザーを利用した方法 [1][2][3] が近年考案されています(図1)。これは、①望遠鏡でデブリを検出し、②レーザー照射することで、③軌道変換し、④デブリを除去する方法で、実現すれば、高効率かつ安全にスペースデブリを除去することができます。本手法は、シミュレーションに基づく研究は進んでいる一方、無重力環境下でデブリにレーザー照射した実証実験は行われていません。また、発生する推進力の正確な大きさやそのメカニズムはよくわかっていません [4]。さらに、軌道変換に必要な速度増分を得るために必要な熱量分のレーザー照射を行うと、デブリの大部分が融解状態となると考えられ、液状化したデブリの沸騰やマランゴニ対流、分裂など、シミュレーションでは考慮されていない物理が関わる可能性が想定されます [5]。上記に述べた課題を実験的に調べる上で、宇宙実験装置の一つであるELFは、極めて有効です。ELFでは、微小重力下かつ非接触で、試料を保持した状態でレーザー照射と試料の正確な位置検出が可能です [6]。従って、正確な推進力の計測ができます。

実験では、スペースデブリを模擬した金属や合金を浮遊、レーザービームを照射した際に生ずる温度変化・推進力の変化を正確に計測することで、レーザー照射によるデブリ除去技術の技術的な実現可能性を検証します。さらには、推進力発生の物理メカニズムや推進力に影響を与える因子を明らかにすることで、推力を向上させる方法を探ります。

図1 レーザーを利用したスペースデブリの除去

期待される成果

微小重力下でレーザー照射中の模擬デブリの挙動・推力を観測、測定することで、レーザー照射時のレーザーナッジのメカニズムを解明することができます。これにより「レーザーナッジの新しいシナリオ構築」や「スペースデブリ対策技術の実用化を目指す大規模研究」へつなげることが期待されます。

地上実験論文

  1. MINAGAWA Naoki, MORI Koichi, ISHIKAWA Takehiko, KOYAMA Chihiro. Thrust Measurement by Weak Laser Ablation on Zirconium, Titanium, and SUS304 Molten Droplets Using Electrostatic Levitator TRANSACTIONS OF THE JAPAN SOCIETY FOR AERONAUTICAL AND SPACE SCIENCES, AEROSPACE TECHNOLOGY JAPAN Vol. 22, pp. 67-70, 2024. doi: 10.2322/tastj.22.67
研究論文(Publication)

森 浩一 MORI Koichi

大阪府立大学工学域航空宇宙工学分野 教授

2004年、東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻博士課程修了(博士(科学))。2004年より東北大学、2006年より名古屋大学を経て、2021年より大阪府立大学工学域航空宇宙工学分野 教授。

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
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