落下実験から生まれた新しい微粒化概念の詳細検証 -乱流微粒化シミュレータの構築を目指し-

更新 2023年7月 5日

AtomizationDetailed validation of the new atomization concept derived from drop tower experiments -Aimed at developing a turbulent atomization simulator-

完了
宇宙利用/実験期間 2018年 ~ 2018年
研究目的 ノズルから水を静止空気中に低速噴射し、噴射液の分断特性を詳細に調査することにより、落下塔による微小重力実験から導かれた新しい微粒化概念(液柱の端の存在によって自励的に液柱が不安定化し分断を繰り返す仕組みの存在)の妥当性を実証します。
宇宙利用/実験内容 試料(水)の充填されたノズル付カートリッジをアクチュエータにてピストンを押すことで、ノズルから水を静止空気中に低速噴射し、液注を生成します。そして液注が筺体内で液滴に分断する過程を高速度カメラにて観察します。
期待される利用/研究成果 高速噴射液の乱流微粒化過程を記述するサブグリッドモデルの構築により、新型エンジンの開発に繋がる、噴射液の流れ計算により噴霧形成を自然に計算できるシミュレータの開発に対する設計ツールを提供します。
成果報告
関連トピックス
詳細

研究代表者

  • 梅村 章(名古屋大学)

研究分担者

  • 長野 方星(名古屋大学)
  • 大坂 淳(名古屋大学)
  • 新城 淳史(島根大学)
  • 姫野 武洋(東京大学)
  • 菊池 政雄(JAXA)

要旨

ノズルから水を静止空気中に低速噴射し、噴射液の分断特性を詳細に調査することにより、落下塔による微小重力実験から導かれた新しい微粒化概念(液柱の端の存在によって自励的に液柱が不安定化し分断を繰り返す仕組みの存在)の妥当性を実証します。

実験の概要

交換可能な水を封入した円筒シリンジ(内径2R=50mm)の噴射側端にはキャップした内半径aのノズルが装着されており、他端にピストンがはめられています。各実験は、表に記載した仕様のノズルを装着したシリンジに交換し、ノズルのキャップを外して実施されます。ピストンは、モータの回転運動をラック・ピニオン機構で直線運動に変換されたロットに押されて動き、実験ごとにプログラムされた噴射条件で作動、表に示す3種類の噴射タイプ(A,B,C)を地上からの指令に従い実現します。噴射開始から目標噴射速Uに0.1秒以内に達します。ロッドの動きには駆動モータによる微小振動が重畳していますが、噴射液ではUになります。R/a>>1ですから、乱流の層流化手法として知られているように、ピストンに押された水はノズル入口までに大幅に縮流し、非常に大きな歪速度を受けて乱れは減衰するからです。筐体内の静止空気(標準大気と同じ状態)中に噴射されたジェットの状態を高速度カメラで撮影し、画像データを地上に送って分析します。

実験タイプ

実験装置

装置概要

本実験で用いる実験装置(微粒化観察実験装置)の外観および概略図を示します。

実験装置フライトモデル外観写真
実験装置概念図

装置の構成

実験装置構成図

装置の主要構成品

名称 機能
制御部・計測制御ユニット 搭載する各機器の運転・監視と計測をし、LAN経由により多目的実験ラックおよび地上との通信を行います
電源部 多目的実験ラックから28VDC電源を受信し、高速カメラ等の各装置へ給電を行います
カメラユニット・ハイスピードカメラ 噴射試料の分断現象の高速度撮影を行います
レンズユニット 実験条件に応じて、撮影視野範囲の変更及び焦点合わせを行い、レンズ駆動用モータにより、遠隔・自動で操作することが可能です
ミラー組立 噴射試料を筐体内の高速カメラから撮影するために設けられた鏡面板
試料容器送り装置 試料容器に含まれた試料を所定の速度で噴射させるための装置で、試料容器送り装置に取り付けられたリニアエンコーダにより送り速度を計測・制御されながら実験条件に応じた速度で試料噴射を行います
試料容器 試料(純水)が封入されたシリンジ型容器。
エンクロージャ 試料への外乱と試料の外部飛散を防ぐボックス
LED照明 高速度撮影を行うために十分な背景光を与えるための照明
水滴捕集装置 試料容器から噴射した試料(純水)を捕集します

仕様

質量 52.78kg
クルータイム 6時間3分
寸法 320mm×380mm×941mm

成果

  1. 軌道上で取得した映像から得た極大点軌跡図は、ジェットの先端収縮により放射される分散波が作る波の挙動をよく表現しており、提案した新しい微粒化概念の妥当性を実証するものでした。
  2. オリフィスジェット(ジェットのプロトタイプ)に対し、分散波の理論を構築し自己不安定化機構の物理を完全に説明しました。
  3. ノズルジェットに自然に不安定波ができるのは、速度分布緩和域内に上流伝播波の転向点が生じるからで、分散波の理論と極大点軌跡図を活用して、ノズルジェットの自己不安定化ループを具体的に同定しました。
  4. 長いノズルを用いた本宇宙実験により、自己不安定化機構が作るコヒーレントな波構造の存在が初めてわかり、その物理を解明しました。
  5. 「決定論的な微粒化像が確定したことより、乱流微粒化シミュレータの構築に挑戦しました。LESで高速噴射液の乱流微粒化過程を記述するサブグリッドモデル(事前実験による調整パラメータを一切含まない)の構築に世界で初めて成功し、本研究の社会還元を果たしました。
ディーゼルジェットの噴霧形成過程のLES計算
研究論文(Publication)
論文名
On Questions Raised by Microgravity Liquid-Jet-Instability Observations
雑誌名
International Journal of Microgravity Science and Application , 2021, Volume 38, Issue 2, Pages 380201-
論文名
Coherent Capillary Wave Structure Revealed by ISS Experiments for Spontaneous Nozzle Jet Disintegration
雑誌名
Microgravity Sci. Technol. (2020) 13 January 2020

梅村 章 UMEMURA Akira

名古屋大学 名誉教授


国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
有人宇宙技術部門 きぼう利用センター
きぼう利用プロモーション室
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