【MHU-7】臓器連関の視点から解き明かす加齢性筋骨格系疾患の発症機構

公開 2022年6月 1日

Neurovascular & interorgan network/ MHU-7The underlying mechanism of age-related musculoskeletal disorders considering the neurovascular and interorgan communication network

解析中
研究目的 宇宙微小重力環境が筋骨格系組織における神経-血管系に与える影響を、独自に開発した骨組織透明化技術などを用いて検討し、筋骨格系加齢性疾患の発症や進行における神経-血管系の役割の解明を目指します。また、重力環境の変化に伴って変動する血中分泌型マイクロRNAを同定し、同定したマイクロRNAが個体の機能低下に与える影響を検討することで、筋骨格系ならびに全身性の加齢性疾患の発症メカニズムの解明も目指します。
宇宙利用/実験内容 神経が緑色蛍光を発現する遺伝子改変マウスを国際宇宙ステーション(ISS)に打ち上げ、「きぼう」日本実験棟で飼育を行い、地上対照実験群との比較解析を実施します。具体的には、宇宙微小重力環境が筋骨格系組織の神経-血管系に与える影響を明らかにするために、筋肉・骨組織の透明化3次元構造解析、組織学的解析、分子生物学的解析を実施します。また、宇宙微小重力環境が血中分泌型マイクロRNAに与える影響を明らかにするために、マイクロRNAの網羅的発現解析およびマイクロRNAの生理作用解析を実施します。
期待される利用/研究成果 本研究の遂行により、骨粗鬆症やサルコペニアなどの筋肉・骨組織の加齢性疾患ならびに老化や寝たきりが原因で生じる全身性の加齢性疾患の病態解明が期待できます。また、重力の変化に伴い変動する血中マイクロRNAを同定し、全身性の加齢性疾患との関連性を検討することで、加齢性疾患の新たなバイオマーカーの開発ならびにマイクロRNAを標的とした新たな治療法の開発も期待できます。
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研究代表者

  • 佐藤 信吾(SATO Shingo)東京医科歯科大学 がん先端治療部 講師

研究分担者

  • 越智 広樹(OCHI Hiroki)国立障害者リハビリテーションセンター研究所 運動機能系障害研究部 分子病態研究室 研究員
  • 村谷 匡史(MURATANI Masahumi)筑波大学医学医療系生命医科学域 ゲノム生物学 教授

要旨

私たちはこれまでの研究において、神経や血管の骨組織内への投射が骨量維持に重要であることを明らかにしてきました。また、加齢とともに骨組織内の神経や血管の量が減少することも見出しており、神経-血管系が筋骨格系の恒常性維持ならびに加鈴による骨量や筋量の低下に重要な役割を担っていると考えています。そこで本研究では、地上で生じる加齢性変化が加速される宇宙微小重力環境を利用して、筋骨格系の加齢性変化における神経-血管系の役割の解明を目指します。

また、加齢による筋骨格系の機能低下は、他臓器の機能低下とも関連することから、臓器連関の視点から個体全体における病態の変化を捉えることも重要です。そこで本研究では、臓器間伝達因子として知られる分泌型マイクロRNAにも着目し、重力環境の変化および加齢に伴って変動する血中マイクロRNAを同定します。さらに、同定したマイクロRNAの生理作用を検討することで、筋骨格系ならびに個体全体の加齢性変化の病態解明も目指します。

実験の概要

神経が緑色蛍光Venusを発現する遺伝子改変マウス(Sox10-Venusマウス)をISSに打上げ、「きぼう」において軌道上飼育装置を用いて飼育を行い、地上対照実験群との比較解析を実施します。具体的に以下の解析を実施する予定です。

  1. 宇宙微小重力環境が骨組織・筋組織の神経-血管系に与える影響の解明
    • 独自に開発した組織透明化技術を用いた筋肉・骨組織の3次元構造解析
    • 筋肉・骨組織内の神経・血管の可視化・定量化
    • マイクロCT等を用いた骨量・筋量解析
    • 筋肉・骨組織の組織学的解析・分子生物学的解析(免疫染色、遺伝子発現解析など)
  2. 宇宙微小重力環境が血中分泌型マイクロRNAに与える影響の解明
    • 血中分泌型マイクロRNAの網羅的発現解析
    • 重力環境の変化に伴って変動する血中分泌型マイクロRNAの同定
    • 同定したマイクロRNAの生理作用解析

本宇宙実験はドラゴン補給船運用24号機(SpX-24)で打ち上げられ、成功裏に実施されました。並行して行った地上対照実験を含め、サンプル解析を進めています。

期待される成果

本研究の遂行により、神経・血管系を介したメカニカルストレスによる筋骨格系恒常性維持機構の解明が期待でき、また、骨粗鬆症やサルコペニアなどの筋肉・骨組織の加齢性疾患ならびに老化や寝たきりが原因で生じる全身性の加齢性疾患の病態解明への貢献も期待できます。さらに、重力の変化に伴い変動する血中マイクロRNAを同定し、全身性の加齢性疾患との関連性を検討することで、加齢性疾患の新たなバイオマーカーの開発ならびにマイクロRNAを標的とした新たな治療法の開発も期待できます。

参考資料

  • Fukuda T, Takeda S, Ochi H et al. Sema3A regulates bone-mass accrual through sensory innervations. Nature. 2013, 497(7450):490-493. doi: 10.1038/nature12115.
  • Hashimoto K, Ochi H, Sato S et al. Cancer-secreted hsa-miR-940 induces an osteoblastic phenotype in the bone metastatic microenvironment via targeting ARHGAP1 and FAM134A. Proc Natl Acad Sci USA. 2018, 115(9):2204-2209. doi: 10.1073/pnas.1717363115.

佐藤 信吾 SATO Shingo

東京医科歯科大学 がん先端治療部 講師

2000年東京医科歯科大学医学部を卒業。同年、同大学整形外科に入局。2007年、東京医科歯科大学大学院博士課程を修了。2009~2010年、京都大学iPS細胞センター・再生医科学研究所研究員。2010~2014年、The Hospital for Sick Children(トロント小児病院)ポスドク研究員。2014~2019年、東京医科歯科大学細胞生理学分野助教・講師。2019年より現職。

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