公開 2026年7月 1日
本研究では、微小重力という特殊な環境が、細胞内のどのような分子機構に作用するのかを詳細に解析しています。
研究チームは、「きぼう」内の細胞培養装置(CBEF※2)を用いて、微小重力環境と人工重力環境のそれぞれで細胞を培養しました。そして、次世代シーケンサー(NGS※3)を用いた「リボソームプロファイリング法※4」により、細胞内でどのタンパク質がどの程度合成されているかを網羅的に解析しました。その結果、細胞内でエネルギーを生み出す小器官であるミトコンドリアの内部で行われるタンパク質合成が、微小重力環境では著しく低下することを発見しました。
さらに、この宇宙実験の結果をもとに詳しく解析したところ、重力という外部からの物理的な情報を細胞内に伝えるシグナル伝達経路を明らかにしました。加えて、この経路は、生理学的には機械的刺激※5に応じてミトコンドリア内のタンパク質合成を制御する仕組みであることも分かりました。
本研究成果は、加齢や長期の宇宙滞在に伴う機能低下(いわゆる老化現象)を抑えるための薬剤や手法の開発につながることが期待されます。
理研プレスリリース
- 重力によってミトコンドリア翻訳が活性化する (2026年6月30日)
きぼう利用テーマ
- 微小重力下における翻訳制御の網羅的解析(Ribosome Profiling)
研究代表者 岩崎 信太郎(理化学研究所 主任研究員)
- ※1 翻訳:mRNAの情報にもとづいてリボソームによってアミノ酸が連結され、タンパク質が合成される過程。
- ※2 細胞培養装置(Cell Biology Experiment Facility: CBEF):ISS「きぼう」に搭載された細胞培養装置で、微小重力と人工重力を比較できる。
- ※3 次世代シーケンサー(NGS):DNAやRNAの配列を高速かつ大量に読み取る装置。
- ※4 リボソームプロファイリング法:NGSを用いてmRNAに結合したタンパク質の翻訳装置であるリボソームを数えることで、翻訳の量や速度を計測する方法。
- ※5 機械的刺激:細胞が受ける力学的な刺激(圧力、伸展、重力など)。
論文情報
雑誌名
Nature Communications
論文名
著者名
Wakigawa Taisei, Kimura Yusuke, Mito Mari, Tsubaki Toshiya, Muhoon Lee, Nakamura Koki, Abdul Haseeb Khan, Saito Hironori, Yamamori Tohru, Yamazaki Tomokazu, Higashibata Akira, Tsuboi Tatsuhisa, Hirabayashi Yusuke, Takeuchi-Tomita Nono, Saito Taku, Higashitani Atsushi, Shichino Yuichi, and Iwasaki Shintaro
DOI
10.1038/s41467-026-74493-z
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
有人宇宙技術部門 宇宙環境利用推進センター
きぼう利用プロモーション室
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