国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」日本実験棟では、JAXAが開発した固体燃焼実験装置(SCEM)※1 を活用して「火災安全性向上に向けた固体材料の燃焼現象に対する重力影響の評価(FLARE)」(研究代表者:藤田 修 北海道大学 教授)※2 を2022年から実施中です。
この度、軌道上実験結果に関する新たな学術論文が「Proceedings of the Combustion Institute」誌 に掲載・公開されました。(論文情報)
FLAREテーマでは材料の地上での燃焼試験結果を基に、微小重力環境である宇宙船内特有の低流速条件で、材料上の火炎の燃え拡がりが維持される限界の酸素濃度(燃焼限界酸素濃度)を予測する世界初の新手法(微小重力環境における酸素指数法)を構築しており、「きぼう」での実験を通じてその妥当性を検証しようとしています。
今回の論文では、最初の実験試料である長さ130 mmの薄い"ろ紙"を用いて実施した計19回の軌道上燃焼実験から得られた結果が報告されています。実験では、試料長方向に低速の周囲流(最大で25cm/s程度)を形成したうえで試料の下流端に電熱線で着火し、対向流条件(周囲流と火炎の燃え拡がり方向が反対方向)での火炎の燃え拡がり挙動を観察しました。
実験に使用した"ろ紙"を地上で垂直に立てて上端に着火し、下方への火炎の燃え拡がりを起こすと、浮力により誘起された対流(自然対流)が上向きに起こるため、軌道上実験と同じ対向流条件での燃え拡がりとなります(図1)。FLAREテーマで構築した新手法では、"ろ紙"の対向流条件における燃焼限界酸素濃度は、微小重力環境において地上よりも低下すると予測していました。「きぼう」での実験の結果、燃焼限界酸素濃度は15 %程度と地上での値(16.58 %)よりも低くなり、予測を裏付ける結果が得られました(図2)。
また、「きぼう」での実験で得られた試料表面近くの流速分布(速度境界層)と火炎の位置関係を基に予測モデルを一部見直すことで、燃焼限界酸素濃度の最小値を更に精度良く予測できることが分かりました(図2における曲線の灰色から青色への変化)。
更に、周囲流速が比較的大きい条件では、燃え拡がる火炎先端は直線状となる(2次元状火炎)のに対し、周囲流速が小さい条件では丸みを帯びた火炎(3次元状火炎)に遷移することも分かりました(図3)。3次元状火炎となることで、火炎先端より前方の未燃試料を予熱する長さが2次元状火炎に比べて短くなり、試料表面から周囲への輻射熱損失が少なくなります。これにより、火炎の燃え拡がりが維持されないとこれまで考えられていた低周囲流速条件においても燃え拡がりが維持されることや、一定以上の酸素濃度では、完全な静止雰囲気条件においても燃え拡がりが持続する結果が得られました(図2のRun #31やRun #14)。
FLAREテーマでは、微小重力環境における材料可燃性評価のための新手法の妥当性を更に検証するため、異なる材料での軌道上実験を今後も実施していく予定です。
- ※1 固体燃焼実験装置(SCEM)
- ※2 火災安全性向上に向けた固体材料の燃焼現象に対する重力影響の評価(FLARE)
研究代表者 藤田 修(北海道大学 教授)
実験目的 固体材料の燃焼性、特に燃焼限界条件が微小重力環境において通常重力環境と比べどのように変化するかを明らかにし、微小重力環境における材料燃焼性評価の国際的な基準を日本が主導して作成することを目的とします。