Nano Step実験からAdvanced Nano Step実験へ
~タンパク質結晶の表面を追い続けた10年間~

公開 2023年6月19日

「タンパク質結晶の完全性を左右する不純物の結晶への分配係数と結晶成長機構との関係(Advanced Nano Step)」は、2012年に「きぼう」の溶液結晶化観察装置(SCOF)を利用して実施された、「微小重力における溶液からのタンパク質結晶の成長機構と完全性に関するその場観察による研究(Nano Step)」の解析から提唱された概念、「高品質化は不純物サイズに依存する」を検証すべく、Nano Stepの共同研究者であった徳島大学の鈴木先生によって2015年に提案されました。
宇宙で良質なタンパク質結晶を育成されるメカニズム解明を目指して、Step by Stepで進めてきた Advanced Nano Stepの軌道上実験が、2023年6月に終了しました。

Advanced Nano Stepは、結晶表面をナノメートルオーダーでその場観察し、どのような実験条件であれば良質な結晶が育成できるかを研究します。GIの結晶成長速度について、過飽和度と溶液中の不純物の種類と濃度をしっかり制御しながら細かく観察し、地上に回収した結晶の品質を放射光実験で観察することで、宇宙で成長したタンパク質結晶の高品質化の謎に迫りました。これまでの宇宙におけるタンパク質結晶成長実験では成長結晶の表面をその場観察した例は無く、いわばブラックボックス的な実験でした。今回の実験により、宇宙での成長の様子と結晶の品質との関係が明らかになると期待されます。

研究代表者コメント
鈴木 良尚 准教授
徳島大学

研究室の学生諸君、筑波宇宙センターで運用・実験準備に携わっていただいた皆様のご尽力のおかげで、何とか無事、Advanced Nano Stepミッションの「きぼう」でのデータ収集作業を全て終了しました。

2012年に「きぼう」で実施した、東北大学の塚本勝男先生が研究代表者をつとめるNanoStepミッションに参加させていただいて以来、11年もの年月が経過してしまったなんて、月日の経つのはなんと早いことでしょう。NanoStepミッションでは、ニワトリ卵白リゾチームというタンパク質結晶の成長する結晶表面を、干渉縞を利用してナノメーターオーダーでその場観察しました。その後を引き継ぎ、Advanced Nano Stepミッションとして、GIというタンパク質の結晶表面を同じく干渉縞を利用してナノメーターオーダーの解像度でその場観察し、微小重力下で不純物が結晶成長および結晶品質におよぼす影響に結論を出すミッションをスタートさせました。しかし、ミッション中さまざまな困難が待ち受けていました。

2017年の1回目の宇宙実験(Cell#1)では、試料が「きぼう」に到着してからすぐには解析できず、また最初は真っ暗で何も見えないというところからのスタートでした。そしてクルー作業を経てダウンリンクされた画像では、種結晶の再成長および結晶成長界面の干渉縞が見られず、さらに別のところで成長した大結晶や、大量の微結晶を溶かす作業のうちに不定形の沈澱が大量発生し、波乱万丈のスタートでした。結局本来のミッション内容である、干渉縞による結晶表面のナノメーターオーダーのらせん成長丘の変化の測定は諦め、面成長速度の過飽和度依存性と核生成頻度の過飽和度依存性のデータを意地で取得し、意地で論文化しました[1]。
胃の痛い思いで、原因究明、長期保管試験、溶液条件の再検討などを行い、しっかりとした検討に時間がかかるために2019年までCell#2実験開始を延長してもらいました。その間、結晶品質の評価に備え、ど素人だったX線結晶構造解析にも取り組み、曲がりなりにも結晶構造解析に関係する論文を執筆することができる様になりました[2、3]。

2019年実施のCell#2実験では、満を持して、種子島宇宙センター(TNSC)での積み込み前の結晶状態チェックまで行い、試料が「きぼう」に到着してすぐに干渉縞の観察と解析できる状態で臨みました。種子島に宇宙実験をサポートスタッフの皆さんと共に乗り込み、保冷剤の詰め込み作業や、結晶の撮影などを行いました。スタッフのみなさんと行動を共にして、短くも楽しい日々を過ごせました。この時、宝満神社で引いたおみくじが、なんと大吉!この後、今日まで神様の啓示に従い、慎み深い生活を送ってきたおかげで、無事乗り切ることができたと信じております(図1)。宝満神社の神様の思し召しかどうか、さまざまな改善の結果、本来の目的を達成することができ、Cell#2の結果は2022年度に無事パブリッシュされました[4]。その後、Cell#3からCell#5まで、無事成功し、順調にデータを取得できました。

「きぼう」での実験の運用スタッフの皆様に最もご苦労をおかけしたのは、干渉縞の調整作業でした。観察用セルの角度を調整するために駆動する超音波モーターは、超小型で、まさに塚本先生の採用の妙です。しかし、その反面ちょっとした配線からの張力にも負けてしまいがちで、うまく適切な角度にセルを回転させるためには、順序を考えて行う必要がありました。Cell#2でも、最初はうまく調整できず、Cell#3では結局干渉縞が閉じないまま解析することになりました。ただ、解析は微妙な条件の変化によって大きな影響を受けるため、やはり、きちんと光軸に垂直に結晶面を調整してから解析する必要があることがよく分かりました(図2)。

まだ、これから回収結晶の品質評価などミッションの作業は残っておりますが、最後まで気を抜かず、頑張って行きたいと思います。

特に断りのない限り、画像クレジットはJAXA

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