"ISS Research Award"は、国際宇宙ステーション(ISS)で優れた成果をあげた研究やイノベーションに対する表彰です。毎年米国で開催されるISS Research and Development Conference(ISS National Laboratory, NASAおよびAmerican Astronautical Societyが主催するISSに関する世界最大の会議)の中で受賞者の発表と表彰式が行われていて、2022年は「Bisphosphonates(ビスフォスフォネート)」がCompelling resultsとして表彰されました。
JAXAがかかわるミッションとしては、2016年以降7年連続の受賞となり、日本のISS利用活動が継続して高いレベルにあることが改めて示されました。
受賞の詳細
宇宙での人間の健康 :宇宙飛行士の骨量減少と尿路結石のリスクを軽減するための運動とビスフォスフォネートを組み合わせることの有効性実証
- 受賞者 松本俊夫(徳島大学)、Jean Sibonga(NASA)、およびビスフォスフォネート研究チーム※
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受賞理由
- 運動と骨粗しょう症治療薬予防投与が宇宙滞在によって生じる骨量減少、尿路結石を予防できる可能性があることを示した。
- JAXA-NASAの医学研究分野の国際協力によって成果創出した。
宇宙の微小重力環境では、骨吸収と骨形成のバランスが破綻し、急激な骨量減少と共に骨からのカルシウム等の溶解産物の放出により尿路結石リスクが増大します。その防止策を検討するため2008年にJAXAとNASAの共同研究が開始されました。ISSに6か月間搭乗する宇宙飛行士を対象に、運動機器を用いた抵抗運動と共に骨吸収抑制薬ビスフォスフォネートを投与すると抵抗運動のみの場合と比較し、骨減少が防止できることはすでに報告しましたが、本研究は尿路結石リスクにおよぼす影響を明らかにしました。
抵抗運動のみでは著明な骨吸収亢進が抑制できず、尿中カルシウムと共に骨基質タンパクの主体であるI型コラーゲンに多く含まれるハイドロキシプロリンの代謝産物のシュウ酸に加え、グリシンやアスパラギン酸代謝物であるプリン体の分解による尿酸排泄も増加し、シュウ酸カルシウム結石の重要な危険因子が増大していました。一方ビスフォスフォネート投与群では、骨吸収の抑制により全ての危険因子の尿中排泄が抑制され、宇宙での微小重力環境下における尿路結石形成の防止にも有効である可能性が示されました。
(松本俊夫 徳島大学藤井節郎記念医科学センター 名誉教授)
宇宙飛行の骨量減少・尿路結石はISS宇宙医学の最重要課題であり、その予防対策をNASA(骨量評価)とJAXA(尿路結石評価)の共同研究として実施しました。研究対象者としてご協力いただいた宇宙飛行士の皆様と、長年にわたりご高配ご支援いただきました多くの関係者の皆様に、この場を借りて深く感謝申し上げます。ISS利用で蓄積された宇宙医学の研究成果は、今後の月・火星への有人宇宙探査や宇宙旅行時の医学管理への活用が期待されています。
(大島博 JAXA客員(元JAXA宇宙医学生物学研究室長))
岡田 淳志1、松本 俊夫2、磯村 達也3、古賀 正4、安井 孝周1、郡 健二郎1、大島 博5、Jean Sibonga6、Adrian LeBlanc7、Elisabeth Spector8、Jeffrey Jones8、Linda Shackelford6