マグマを理解するための宇宙実験を行いました!

公開 2022年8月24日
図1 ISS搭載静電浮遊炉(ELF)

2022年8月、国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」日本実験棟の静電浮遊炉(Electrostatic Levitation Furnace:ELF) を用いて、「低重合度のケイ酸塩融体における粘性、密度の温度依存性測定(Silicate Melt)※1」テーマの宇宙実験を実施しました。実験開始直後に地上では測定が極めて困難な鉄に富むケイ酸塩融体(MgO-FeO-SiO2系)の精密な密度データや粘性解析に必要な振動データの取得に世界で初めて成功しました。今後も地球内部のマグマの状態・挙動を解明する上で必須の物性データ解析を進めます。

マグマの主成分であるケイ酸塩融体は重合した構造を持ち、主にSiO2量の変化によりその重合度は大きく変化し、その結果、密度、粘性などの物性も大きく変化します。これまでの研究において、現在の地表の火山で見られるようなSiO2に富む重合したケイ酸塩融体の物性測定は数多く行われており、火山マグマの理解を目指した研究が行われています。一方、地球の形成初期に存在していたと考えられる、地球の大部分が溶融したマグマの海(マグマオーシャン)は、SiO2量が比較的少なく鉄に富む低重合度のケイ酸塩融体と考えられています。初期地球のマグマオーシャンから現在の核やマントルの形成に至る地球の形成過程を理解するには、この低重合度のケイ酸塩融体の状態・挙動の解明が重要です。

従来の地上の実験手法では、試料中の鉄と試料を入れる容器の反応により、その物性測定は困難でした。今回の実験では、無容器で超高温材料を溶融させて物性を取得することが可能な「きぼう」の静電浮遊炉(ELF)(図1)を用いることで、一般的な電気炉では溶融が難しい高融点のかんらん石(図2)をはじめとするケイ酸塩を溶融させることができます。また、容器を必要とせずに試料を空間にとどめることで、容器と試料中の鉄の反応に影響されない、精密な密度、粘性データを取得することができます。

本宇宙実験の開始直後にMgO-FeO-SiO2系の密度の測定に世界で初めて成功しており、今後もマグマオーシャンのマグマの状態の解明に向けて、研究チーム(図3)とJAXAで連携しながら物性データの解析を進めます。

図2 かんらん石(地球惑星マントルの主要構成成分)© 愛媛大学
図3 Silicate Melt研究チーム(左から高輝度光科学研究センター 尾原幸治主幹研究員、愛媛大学 河野義生准教授、岡山大学 近藤望博士)
  • ※1 低重合度のケイ酸塩融体における粘性、密度の温度依存性測定(Silicate Melt)
    • 研究代表者河野 義生(愛媛大学 准教授)
    • 実験目的 「きぼう」の静電浮遊炉(ELF)を利用し、これまでの地球科学研究では測定することができなかった低重合度のケイ酸塩融体の密度、粘性の温度依存性を測定します。さらに、地上データと宇宙実験データを組み合わせることにより、地球内部の高温高圧環境下におけるマグマの粘性変化についての信頼性の高いモデルを構築します。
研究代表者コメント
河野 義生 准教授
愛媛大学

「きぼう」の静電浮遊炉を用いた実験は、材料科学研究だけでなく、地球科学におけるマグマの熱物性の研究にも非常に有効な手法だと思います。今回の実験において、地上では実験が困難であった高融点のかんらん石組成や鉄を多く含むケイ酸塩組成の融体の密度を測定することに成功しており、地球内部のマグマを理解するための重要な基礎データとなると期待しています。

特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA

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