創薬標的の約半分が膜タンパク質であるため、膜タンパク質の精密構造情報の必要性は高いのですが、膜タンパク質の結晶化は水溶性のタンパク質のそれと比較して非常に困難であることが知られています。また、膜タンパク質の結晶化法として普及している脂質キュービック相(Lipidic Cubic Phase: LCP)を用いた方法(LCP法)は手順が複雑であるため、これまで軌道上では実現できませんでした。JAXAではLCP法を軌道上で実施するため、今回の技術実証実験に用いる専用器具を準備しました。野口宇宙飛行士は、この器具を使ってタンパク質と脂質を混合し、結晶化容器にタンパク質を分注して結晶化を開始しました。今回の技術実証が成功すれば「きぼう」を利用した創薬支援技術が大きく前進することになります。
膜タンパク質結晶化技術実証のほかに、4℃でなければ高品質な結晶が得られないタンパク質の結晶生成実験(LTPCG#6)も実施します。生体イメージング技術への応用が期待できる発光タンパク質、自己免疫疾患治療薬や抗がん剤の開発につながるタンパク質などを打ち上げ、12月11日に、ルビンス宇宙飛行士が実験開始作業を行いました。
実験機材及び実験サンプルは2020年12月7日1時17分(日本時間)に米国スペースX社のドラゴン補給船(SpX-21)にてISSに打ち上げられました。結晶生成実験終了後の1月初旬にドラゴン補給船で実験サンプルを地上に回収する予定です。
今回のLT PCG#6実験に参加する提案者と所属機関は下表のとおりです。
提案者 | 所属機関 | |
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1 | 阿部 義人 教授 | 国際医療福祉大学 |
2 | 有竹 浩介 教授 | 第一薬科大学 |
3 | 海野 昌喜 教授 | 茨城大学 |
4 | 近江谷 克裕 特命上席研究員 | (国研)産業技術総合研究所 |
5 | 織田 昌幸 教授 | 京都府立大学大学院 |
6 | 阪本 泰光 准教授 | 岩手医科大学 |
7 | 砂川 陽一 助教 | 静岡県立大学 |
8 | 藤井 郁雄 教授 | 大阪府立大学大学院 |
9 | 森本 幸生 教授 | 京都大学複合原子力科学研究所 |