2017年度「きぼう」を使った材料の熱物性値測定・新機能材料創成実験【基盤研究利用コース】として選定された「ヘテロ凝固核を添加した積層造形用金属粉末の凝固挙動の解明(Hetero-3D)※1」の軌道上実験が、2023年5月に終了しました。
本研究は、静電浮遊炉などを利用して、ヘテロ凝固核添加が凝固挙動(最大過冷度、凝固組織)に与える影響を明らかにすることを目的としています。一般に、融体が冷え固まると融体内部に結晶核が生成し、これを起点として結晶成長します。今回は、融体とは異なる組成の(=ヘテロな)添加物を核として混ぜ合わせた試料の挙動解明のために、純チタンおよびチタン合金(アルミニウムとバナジウムを少量混ぜ合わせた合金)の溶解・凝固実験を行いました。本実験成果により、3D積層造型における溶融・凝固シミュレーション、凝固組織制御が可能になると期待されます。
今回の実験で取得した凝固過程の温度変化および高速度カメラによる結晶成長の観察結果について、現在、鈴木教授率いる研究チームで解析作業を行っています。今後、実験後の試料を地上へ回収し純チタンおよびチタン合金の結晶粒微細化効果を確認します。
- ※1 ヘテロ凝固核を添加した積層造形用金属粉末の凝固挙動の解明(Hetero-3D)
- 研究代表者鈴木 進補(早稲田大学 教授)
- 実験目的 微小重力下で純チタンおよびチタン合金を溶融させ、ヘテロ凝固核添加よる結晶粒微細化効果を明らかにする。
皆様のご尽力のおかげで、予定していた軌道上浮遊実験を無事完了することができました。心より御礼申し上げます。
提案時には想定していなかった数々の困難を乗り越えての実施だったため、感慨深くこの1か月の実験期間を過ごしました。皆で苦労して準備し育てた試料たちが、宇宙から元気にモニター越しに顔を出した姿は、いとおしく見え、また、やや不格好な試料ほど、溶融判定がしやすいため、余計にかわいく思えました。「合金は溶かさないといけないが、添加物は溶かしてはいけない」という厳しい制限の加熱条件から、「溶けたらすぐに加熱オフ」が求められていました。加熱時の実験運用エリアでは緊張感の中、実験運用チームの皆さん、学生たちが息をぴったり合わせての素晴らしい連携プレーをしてくださいました。JAXA静電浮遊炉チームの皆様には、400km上空を8km/sで移動中の実験装置を遠隔操作し、加熱中の暴れる試料を手懐け、電極に貼りついた試料の回収するなど神業を見せていただきました。
また、設置したばかりの高速度カメラを使用する好機に恵まれました。予定外で、初めての経験でしたが、限られた条件のなか、少しでも良いデータを如何に獲るか皆で知恵を出し合った結果、結晶が成長する様子を貴重な動画として納めることができました。試料たちが元気に帰還するのを楽しみにしています。