国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟に搭載している全天X線監視装置MAXI(マキシ)は、数千年に一度と考えられる史上最強のガンマ線バースト GRB 221009AからのX線残光の初期観測に成功しました。本成果は、MAXIチーム、Swift(スウィフト)チーム、NICER(ナイサー)チームなどからなる国際共同研究グループにより、米国アストロフィジカル誌に論文発表されました [文献1] 。
発見の経緯
2022年10月9日の日本時間 22時58分、MAXIは全天で2番目に明るくなった突発X線天体を、や(矢)座に発見しました(図1、同10日02:24報告[注1][文献2])。その12分後に、NASAのガンマ線バースト観測衛星スウィフトでも同天体を検出しました(同9日23:39報告[文献3])。その後、それに先立つ同22:16に同天体付近でこれまで検出された中で最も明るいガンマ線バースト[注2]が発生したとNASAのガンマ線観測衛星フェルミの観測チームから報告がありました(同10 日05:54報告 [文献4])。
これらの報告により、世界中の天文台の望遠鏡や観測装置がGRB 221009Aと名付けられたそのガンマ線バーストの観測を開始しました。その結果、ピーク強度が1万Crab[注3] 以上という観測史上最大[注4]のガンマ線バーストだったことが判明しました。MAXIが受けたのはそのX線残光[注2]で、しかもGRB 221009AのX線残光の初期の観測となりました。
数千年に一度の規模の明るさ
19億光年(赤方偏移0.151)も離れているにもかかわらず、ガンマ線バースト本体は静穏時の太陽と同じ程度のX線強度であったということから、どれほど強力なガンマ線バーストであったかが分かります。史上最大の明るさ(BOAT:Brightest Of All Time)と表現している論文もあります [文献5]。その発生頻度をこれまでに検出されたガンマ線バーストの明るさと距離の分布などから見積もったところ、数千年に一度の現象であることがわかりました。
さらに、MAXIが受けたX線残光は、これまでスウィフト衛星が17年間に観測した約400のガンマ線バーストの残光の中で最も明るいものよりもさらに1桁ほど明るかったことが分かりました。MAXIは約1時間半で全天を1回スキャン観測しますが、X線残光は急激に減光するため、通常は弱い強度(0.1crab程度)で1回観測できるかどうかでした。しかし今回は、発生41分後でありながら初回の観測では約2.5 Crabもあり、その後も5スキャン(7.5時間)に渡って検出されました [文献1, 6](図2)。
X線リングとMAXIにより明らかになった初期X線残光の特徴
GRB 221009A は図1のように銀河面に近い位置で発生し、放出されたX線は銀河系内の塵の層をいくつも透過して地球に到達することになりました。その結果スウィフト衛星による観測では幾重にも重なる「X線リング」が観測されました[注5]。ガンマ線バースト本体のガンマ線が銀河系内の塵により反射され、時間差で地球に到達するために見られる現象です。
MAXIのデータでは中心の残光と反射リングを区別できないため、MAXIデータではX線リングを考慮して解析を行い、正確な光度曲線を計算しました(図2)。
MAXIチーム、スウィフトチーム、NICERチームなどが共同で解析結果をまとめ、米国アストロフィジカル誌 特別号に論文が掲載されました[文献1]。
過去最大の明るさだったがゆえに、これまでになくガンマ線バーストとその残光の特徴が数多く詳細に得られた今回の結果は、今後、まだ謎が多いガンマ線バーストとその残光を理解する上で多くの情報を与えるものと考えられます[注6]。また、重力波観測が2023年5月から再開されることもあり、MAXIによるブラックホール新星をはじめとする新たな突発天体・突発現象の更なる発見が期待されています。
文献
- [1] Williams, M. et al. 2023, Astrophysical Journal Letters 946 L2 GRB 221009A特別号
- [2] Negoro, H. et al. 2022, Astronomers Telegram, 15651
- [3] Dichiara, S. et al. 2022, Gamma-ray Coordinates Network, 32632
- [4] Veres, V. et al. 2022, Gamma-ray Coordinates Network, 32636
- [5] Burns, E. et al. 2023, Astrophysical Journal Letters 946 L31 GRB 221009A特別号
- [6] Kobayashi, K. et al. 2022, Gamma-ray Coordinates Network, 32756
- 文献1の著者(全36 機関)
- MAXIチームの共著者 三原建弘(理化学研究所)、根來均・小林浩平(日本大学)、岩切渉(千葉大学)、杉田聡司・芹野素子(青山学院大学)、河合誠之(東京工業大学)
- スウィフトチームの主な共著者 M. Williams, J. Kennea, S. Dichiara(米 ペンシルバニア州立大学)、A. Beardmore, P. Evans(英 レスター大学)、S. B. Cenko(米 NASA ゴダード宇宙飛行センター, メリーランド大学)
- NICERチームの主な共著者 K. Gendreau(米 NASA ゴダード宇宙飛行センター)
参考
- [NASAプレスリリース] NASA Missions Study What May Be a 1-In-10,000-Year Gamma-ray Burst
- [ApJリリース] Focus on the Ultra-luminous Gamma-Ray Burst GRB 221009A
国内のMAXIチーム
- 理化学研究所、JAXA、日本大学、青山学院大学、愛媛大学、東京工業大学、京都大学、宮崎大学、中央大学、千葉大学
解説
注1
通信不可の影響を受けなかったISS上の OHMAN は自動検出しましたが、9日23:10にNICERの向けられない位置と分かり、即時観測をあきらめました。