全天X線監視装置MAXIによる、数千年に一度のガンマ線バースト GRB 221009Aの検出

公開 2023年4月 6日

国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟に搭載している全天X線監視装置MAXI(マキシ)は、数千年に一度と考えられる史上最強のガンマ線バースト GRB 221009AからのX線残光の初期観測に成功しました。本成果は、MAXIチーム、Swift(スウィフト)チーム、NICER(ナイサー)チームなどからなる国際共同研究グループにより、米国アストロフィジカル誌に論文発表されました [文献1] 。

発見の経緯

2022年10月9日の日本時間 22時58分、MAXIは全天で2番目に明るくなった突発X線天体を、や(矢)座に発見しました(図1、同10日02:24報告[注1][文献2])。その12分後に、NASAのガンマ線バースト観測衛星スウィフトでも同天体を検出しました(同9日23:39報告[文献3])。その後、それに先立つ同22:16に同天体付近でこれまで検出された中で最も明るいガンマ線バースト[注2]が発生したとNASAのガンマ線観測衛星フェルミの観測チームから報告がありました(同10 日05:54報告 [文献4])。
これらの報告により、世界中の天文台の望遠鏡や観測装置がGRB 221009Aと名付けられたそのガンマ線バーストの観測を開始しました。その結果、ピーク強度が1万Crab[注3] 以上という観測史上最大[注4]のガンマ線バーストだったことが判明しました。MAXIが受けたのはそのX線残光[注2]で、しかもGRB 221009AのX線残光の初期の観測となりました。

図1 MAXIによって得られた、6時間積分のX線カラー画像(銀河座標系)。上はガンマ線バースト発生前、下は発生後。GRB 221009Aは銀河面に近い位置で発生した。はくちょう座X-1星は有名なブラックホール天体。Image by MAXIチーム

数千年に一度の規模の明るさ

19億光年(赤方偏移0.151)も離れているにもかかわらず、ガンマ線バースト本体は静穏時の太陽と同じ程度のX線強度であったということから、どれほど強力なガンマ線バーストであったかが分かります。史上最大の明るさ(BOAT:Brightest Of All Time)と表現している論文もあります [文献5]。その発生頻度をこれまでに検出されたガンマ線バーストの明るさと距離の分布などから見積もったところ、数千年に一度の現象であることがわかりました。
さらに、MAXIが受けたX線残光は、これまでスウィフト衛星が17年間に観測した約400のガンマ線バーストの残光の中で最も明るいものよりもさらに1桁ほど明るかったことが分かりました。MAXIは約1時間半で全天を1回スキャン観測しますが、X線残光は急激に減光するため、通常は弱い強度(0.1crab程度)で1回観測できるかどうかでした。しかし今回は、発生41分後でありながら初回の観測では約2.5 Crabもあり、その後も5スキャン(7.5時間)に渡って検出されました [文献1, 6](図2)。

図2 フェルミ衛星のGBM検出器(黒)、MAXI(赤)、スウィフト衛星のX線望遠鏡 XRT(緑)、NICER(青)によって得られたGRB 221009A のX線光度曲線。X線残光のデータは文献1から、フェルミ衛星のデータは 「Fermi 」より入手し、他と同じエネルギー帯域での強度に換算。即時放射はあまりにも明るかったためGBM検出器も飽和してしまい、また換算時の不確定性もあるので、即時放射の強度は1桁ほどの不確定性がある。Image by MAXIチーム

X線リングとMAXIにより明らかになった初期X線残光の特徴

GRB 221009A は図1のように銀河面に近い位置で発生し、放出されたX線は銀河系内の塵の層をいくつも透過して地球に到達することになりました。その結果スウィフト衛星による観測では幾重にも重なる「X線リング」が観測されました[注5]。ガンマ線バースト本体のガンマ線が銀河系内の塵により反射され、時間差で地球に到達するために見られる現象です。
MAXIのデータでは中心の残光と反射リングを区別できないため、MAXIデータではX線リングを考慮して解析を行い、正確な光度曲線を計算しました(図2)。
MAXIチーム、スウィフトチーム、NICERチームなどが共同で解析結果をまとめ、米国アストロフィジカル誌 特別号に論文が掲載されました[文献1]。

過去最大の明るさだったがゆえに、これまでになくガンマ線バーストとその残光の特徴が数多く詳細に得られた今回の結果は、今後、まだ謎が多いガンマ線バーストとその残光を理解する上で多くの情報を与えるものと考えられます[注6]。また、重力波観測が2023年5月から再開されることもあり、MAXIによるブラックホール新星をはじめとする新たな突発天体・突発現象の更なる発見が期待されています。

文献

  •  [1] Williams, M. et al. 2023, Astrophysical Journal Letters 946 L2 GRB 221009A特別号
  •  [2] Negoro, H. et al. 2022, Astronomers Telegram, 15651
  •  [3] Dichiara, S. et al. 2022, Gamma-ray Coordinates Network, 32632
  •  [4] Veres, V. et al. 2022, Gamma-ray Coordinates Network, 32636
  •  [5] Burns, E. et al. 2023, Astrophysical Journal Letters 946 L31 GRB 221009A特別号
  •  [6] Kobayashi, K. et al. 2022, Gamma-ray Coordinates Network, 32756
  •  文献1の著者(全36 機関)
    •  MAXIチームの共著者 三原建弘(理化学研究所)、根來均・小林浩平(日本大学)、岩切渉(千葉大学)、杉田聡司・芹野素子(青山学院大学)、河合誠之(東京工業大学)
    • スウィフトチームの主な共著者 M. Williams, J. Kennea, S. Dichiara(米 ペンシルバニア州立大学)、A. Beardmore, P. Evans(英 レスター大学)、S. B. Cenko(米 NASA ゴダード宇宙飛行センター, メリーランド大学)
    • NICERチームの主な共著者 K. Gendreau(米 NASA ゴダード宇宙飛行センター)

参考

国内のMAXIチーム

  •  理化学研究所、JAXA、日本大学、青山学院大学、愛媛大学、東京工業大学、京都大学、宮崎大学、中央大学、千葉大学

解説

注1
MAXIが残光を真っ先に検出しましたが、観測時ISSと地上は通信不可だったため、スウィフトに次いで世界で2番目の報告となりました。2周回目のスキャン観測のデータが10 日の日本時間00:31頃にまず下りてきて、最初のスキャンのデータは10 日の00:55頃に降りてきました。なお、フェルミの報告まで、同天体はガンマ線バーストではなく、X線新星 Swift J1913.1+1946 という天体名で報告されています。
通信不可の影響を受けなかったISS上の OHMAN は自動検出しましたが、9日23:10にNICERの向けられない位置と分かり、即時観測をあきらめました。
注2
今回観測された、最も一般的なタイプである継続時間の長いガンマ線バーストの構成を以下の図に示します。 大質量星 (左) のコアが崩壊し、ブラックホールが形成されます。このブラックホールは、粒子ジェットを放出し、それは崩壊する星の中を突き抜け、ほぼ光速で宇宙空間に放出されます。多波長にわたる放射は、生まれたばかりのブラックホールの近くにある高温電離ガス(プラズマ)、ジェット内の高速で移動するガスの層同士の追突(内部衝撃波)、および星間ガスを押しのけるジェットの前縁(外部衝撃波)から発生します。ガンマ線バースト本体(即時放射)は初期の内部衝撃波からの放射で、残光は続く外部衝撃波からの放射と考えられています。
Image by NASA's Goddard Space Flight Center
注3
Crab はカニ星雲(カニパルサー含む)のX線強度を基準としたX線やガンマ線天文学で用いられる明るさの単位です。最も明るい天体は、太陽以外で最初に発見されたX線源さそり座 X-1 星で、約 20 Crab です。
注4
GRB 221009Aはもともとの放射エネルギー自体も大きく、近傍(赤方偏移1以下)=最近(宇宙年齢70億年以降)では観測史上最大のガンマ線バーストでした。その上、距離19億光年(赤方偏移0.151、VLT望遠鏡)という異例な近傍で発生したために、史上最も強いものとなりました。なお、これほど強いガンマ線であれば、MAXIは視野外であっても検出器の壁面を突き抜け検出できますが、この時はガンマ線バースト源が地球に隠れていたため検出できませんでした。
注4
GRB 221009A の最初の閃光X 線は、私たちの銀河系内の塵により反射され、X線が遅れて私たちのところに到達するため、数週間にわたって検出されることがあります。(反射され斜めの光路をたどるため地球に到着するのが遅れる)。塵が何か所にも存在するため、複数のリングが出現しました。以下の動画は、 NASA のスウィフト衛星に搭載された X 線望遠鏡によって 12 日間にわたって撮影された画像から作成されました。
Image by NASA/Swift/A. Beardmore (University of Leicester)
注6
ジェームズウェブ宇宙望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡で分光観測がなされましたが、超新星の兆候は見つかっていません。重力波天文台は休止中でした。

関連トピックス


国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
有人宇宙技術部門 きぼう利用センター
きぼう利用プロモーション室
お問い合わせ

きぼう利用ネットワーク

「きぼう」利用や宇宙実験に関する最新情報をお届けします。「きぼう」利用や宇宙実験に興味のある方はどなたでもご参加いただけます。

  • きぼう利用ネットワーク
  • きぼう利用ネットワークTwitter
  • メンバー登録フォーム
  • メンバー情報変更フォーム
  • メンバー情報登録解除フォーム