国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」日本実験棟の船外プラットフォームに搭載されている高エネルギー電子・ガンマ線測定装置(CALET)が、8.4ギガ電子ボルトから3.8テラ電子ボルトという広いエネルギー領域で、ホウ素の流量を高精度に観測することに成功しました。
ホウ素は宇宙空間で二次的に生成される原子核であるため、宇宙線が生成されてから地球に到達するまでの"歴史"を理解する鍵として、これまでに多くの観測が行われてきました。今回の観測では、炭素と星間物質との相互作用によりホウ素が宇宙空間でどのようにして生成されるかを解明するために必要な、ホウ素/炭素比を世界で最も高精度にテラ電子ボルト領域まで明らかにしました。
この成果は科学雑誌Physical Review Lettersに掲載されました。【論文情報】
多くの元素は、星の進化の過程で核融合反応により生成しますが、リチウム、ベリリウム、ホウ素などの元素は、この過程では生成されません。ではどうやって生成したのでしょうか。宇宙線は、星の進化の過程で生成された元素が、進化の最終段階で超新星爆発などにより加速されて、宇宙空間に飛び散ったものですが、ホウ素などの元素は、宇宙線が銀河系内を伝播する間に星間物質(ガス)と衝突して二次的に生成されたものであると考えられています。ホウ素の場合は、それより少し重い炭素が星間物質と相互作用して生成される確率が高く、両者の比(ホウ素/炭素)を観測することで、ホウ素の起源に迫ることができます。
宇宙線は銀河磁場によって散乱されて拡散的に伝播するため、エネルギーが高くなるほどより直線的に進み、地球に到達するまでの距離が短くなります。それに比例して星間物質との衝突確率が減ることになります。すなわち、エネルギーが高いほど、ホウ素の生成確率が下がり、ホウ素/炭素比はエネルギーの増大とともに減少することになります。この減少の様子は、宇宙線の散乱に寄与する銀河磁場の構造や宇宙線が衝突を起こす星間物質の分布を反映します。このため、それらの理論的推測に基づく宇宙線の銀河内伝播モデルが数多く提案されており、そのモデルの決定のために広いエネルギー領域でのホウ素/炭素比の高精度な測定が望まれていました。しかし、高エネルギーになるほどホウ素の量は極めて少なく、TeV領域では炭素の数%ほどに減少するため、観測は極めて困難な状況でした。CALETによる広いエネルギー領域にわたる高精度観測により、ホウ素の起源、そして宇宙線の銀河内伝播モデルの検証に必要な貴重なデータを提供することができました。
- 宇宙線が銀河系内を伝播する様子の高精度観測に成功 (早稲田大学プレスリリース)(2022年12月20日)