国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟、船外プラットフォーム搭載の宇宙線電子望遠鏡(CALET:高エネルギー電子・ガンマ線測定装置)が、10テラ電子ボルト領域で銀河宇宙線の主成分である陽子の「エネルギースペクトル軟化※」を高精度に観測することに成功しました。これまでの観測例ではデータのばらつきが大きく、スペクトル全体の総合的理解が困難な状況でしたが、広範囲でのエネルギー領域でスペクトル構造の高精度観測を達成したことは、超新星残骸での宇宙線加速機構や銀河内での宇宙線伝播機構の解明に重要な貢献となると期待されます。この成果は科学雑誌Physical Review Lettersに掲載され、編集者から特筆すべき成果との評価を受けました。【論文情報】
宇宙線は約100年前に発見されて以来、常に物理学の最先端のテーマでした。宇宙線は、太陽や天の川銀河など宇宙の様々な場所から飛んできますが、そうした宇宙線は超新星爆発によって生じる衝撃波で加速され、銀河磁場によって伝播すると考えられています(標準モデル)。標準モデルによれば、観測される宇宙線のエネルギースペクトルは、「べき関数型」(E-γ)をしており、指数(-γ)は一定の値を持つはずなのですが、近年この標準モデルでは説明のつかない観測結果が報告されつつあり、議論となっていました。正確な議論を行うためには、広範囲なエネルギー領域で高精度にエネルギースペクトルを調べる必要がありますが、今回CALETは、単独の検出器を用いて50ギガ電子ボルトから60テラ電子ボルトという3桁以上にわたる広いエネルギー領域の観測により(図1の赤色のデータ)、指数の値がエネルギーによって変化し、特に10TeV領域における急激なスペクトル軟化を測定することに成功しました(同黄色矢印)。本研究グループによる今回の成果は、宇宙線の主成分である陽子の精密なスペクトル構造を観測しており、宇宙線の衝撃波加速の限界エネルギーについて新たな知見を与えるだけでなく、新たな加速メカニズムを検証する上でも重要な発見となります。
- 宇宙線陽子スペクトルの高精度直接観測に成功 (早稲田大学プレスリリース)(2022年9月14日)
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用語解説
スペクトル軟化
- エネルギースペクトルの指数の絶対値が大きくなる方向のスペクトル変化を表し、エネルギーに対する流束の減少割合が増えていくことを示します。