インクリメント59/60期間
2019年3月15日 ~ 2019年10月3日
インクリメント59/60キーメッセージ
有人探査に向けた長期滞在技術実証ステージの幕開け
~宇宙探査に貢献する技術データの取得と産業自立化へ向けた利用事業の着実な実行~
インクリメントマネージャ紹介
私の担当インクリメントは2019年3月15日のソユーズMS-12宇宙船(58S)ドッキングで始まり、10月3日アンドックをもって完了しました。
ISSへの物資輸送機の往還として、SpaceX社のドラゴン補給船の17号機と18号機に加え、「こうのとり」8号機の打ち上げにより実験機材をISSに運び、多くの実験を実行することができました。多くの利用者が利用希望を寄せる中、宇宙に機材を送る順番や実験開始の優先順位等の国内・国際調整を行い、円滑な利用運用を行うことができました。
ISSでは、実験装置の状況や補給機の打ち上げスケジュールによる計画変更が多いため、状況に合わせて複数のパターンを想定しながら宇宙実験の準備を進めることが必要です。特に前インクリメントはソユーズMS-10宇宙船(56S)緊急帰還によって滞在人数が6人の体制から3人体制となったことで通常時より利用できるクルータイムが減少しました。その代わり本インクリメントでは利用できるクルータイムが増大し、過去にできなかった作業や将来やる予定だった作業なども含めて多くの実験を実施することができました。その分多くの地上準備や実験の同時実施のための工夫が必要でしたが、実験運用チームとの連携により利用者の希望を最大限に考慮した実験計画を作成し、無事実施することができたと思います。
このように「きぼう」利用成果創出のために確実なミッション実現を目指して活動した結果、「きぼう」利用運用の成果を得ることができました。本インクリメントの実験成果の例としては、月面の低重力環境での現象を再現した環境でマウス飼育ミッションを実施し、全匹生存回収に成功した ことと、超小型衛星放出に成功した ことなどがあげられます。
今年は「きぼう」・「こうのとり」運用10周年を迎える節目の年となり、今後のISS・「きぼう」利用の将来 に関しても展望することのできる良い時期となったと思います。このような重要な時期にインクリメントマネージャを担当することができたことを誇りに思います。
最後に、インクリメントを終わるにあたり、関係者の皆様の多大なるご支援に感謝の気持ちを表します。本当にありがとうございました。
私はこれまでJAXAにおいて生命科学実験の準備と実施を担当してきました。この度、インクリメントマネージャとして、生命科学実験のみならず「きぼう」船外利用ミッション、宇宙医学、物質材料系実験等、JAXAの全実験を成功に導くことを目指して活動する担当になりました。これまでより広い担当範囲となることに対して緊張感と期待感をもって日々仕事に取り組んでいます。
スペースシャトルの退役後、ロシアのソユーズ宇宙船がISSへの有人輸送を担っていますが、私の担当インクリメントでは、米国企業が新規開発した有人宇宙船の試験飛行が開始され、ISSの利用も有人探査に向けた新ステージに移り変わっていく時期にあります。JAXAは日本独自の水再生システムを開発中です。また、月面や火星表面という低重力環境での現象を再現するため新規実験用遠心機を取り付け可能なインキュベータの開発を進めています。ISSへの補給機のスケジュールに関しては変更が多い状況ですが、地上検証を着実に行い、計画的に宇宙実験の準備を進めていきます。同時に、ISSを経済活動の場にする活動も進展しています。JAXAは超小型衛星放出事業に関して民間の事業者を選定するなど、産業自立化に向けた取り組みを開始しています。私の担当するインクリメントでは超小型衛星放出を含む船外利用ミッションに関してこれまでになく最大の頻度での作業を予定しています。このように「きぼう」利用成果創出のために確実なミッション実現を目指して活動していきます。
利用ミッション(実施)
超小型衛星放出プラットフォーム
船外ポート利用プラットフォーム
- 中型曝露実験アダプター(I-SEEP)利用
- 中型曝露実験アダプター(I-SEEP)利用 HDTV-EF2(GPS/Wheel Demo Unit)
- 中型曝露実験アダプター(I-SEEP)利用 SOLISS
- 簡易曝露実験装置 【ExHAM#1、#2】
- 高エネルギー電子、ガンマ線観測装置【CALET】
- 全天にわたるX線天体観測【MAXI】
新薬設計支援プラットフォーム
- 高品質タンパク質結晶生成実験
- 高品質タンパク質結晶生成実験(4℃)第5回【JAXA LTPCG#5】
- 高品質タンパク質結晶生成実験(ロシア打ち上げ)第3期 第4回【JAXA PCG#16】
- 高品質タンパク質結晶生成実験(中温、米国打ち上げ)第3回【JAXA MTPCG#3】
加齢研究支援プラットフォーム
- 第4回小動物飼育ミッション【JAXA Mouse Mission (MHU-4)】
- 第5回小動物飼育ミッション【JAXA Mouse Mission(MHU-5)】(機材の打ち上げのみ)
宇宙医学
- 宇宙滞在中の液体生検による血漿中核酸のゲノム・エピゲノム解析【Cell-Free Epigenome】
- 閉鎖微小重力環境下におけるプロバイオティックスの継続摂取による免疫機能および腸内環境に及ぼす影響の検討に係る共同研究【Probiotics】
- 長期宇宙滞在がヒトの脳循環調節機能に及ぼす影響【Cerebral Autoregulation】
- 長期宇宙滞在により引き起こされる耳石前庭機能障害の評価【Labyrinth】
- 「きぼう」を利用した骨粗鬆症に係わる蛋白質の臨床プロテオーム研究【Medical Proteomics】
新プラットフォーム形成(無容器処理技術を利用した材料研究への貢献)
長期滞在・探査ミッション技術獲得
- 水再生技術実証【JEM Water Recovery System】 (実験材料の打ち上げのみ)
- 惑星表面の柔軟地盤の重力依存性調査【Hourglass】(機材の打ち上げのみ)
科学研究促進(生命科学)
科学研究促進(物質・物理科学)
- 火災安全性向上に向けた固体材料の燃焼現象に対する重力影響の評価(宇宙火災安全テーマ)【FLARE】 (機材の打ち上げのみ)
- タンパク質結晶の完全性を左右する不純物へ分配係数と成長機構との関係【Advanced Nano Step】
- マランゴニ対流の時空間構造 【Marangoni UVP】
- 沸騰二相流体ループを用いた気液界面形成と熱伝達特性【Two Phase Flow】
その他
- 夢☆宇宙米プロジェクト【Kakuda Space Rice】
- お酒まろやかミッション【Spirits Maturation】
- ※利用ミッションは、「きぼう利用戦略」の具体的取り組みの分類に基づいたマッピング(図1)を基に優先順位を定めています。