About
03
タンパク質の研究は、「生命とは何か?」というテーマを解明する手がかりとなるだけでなく、
私たちの生活をより豊かにします。
生命活動の主役とも言えるタンパク質は、それぞれ決まった形、決まった構造を持っており、それらの働きが複雑に絡み合うことで生命は成り立っています。
つまり、タンパク質の働きを知ることができれば、「生命とは何か?」という疑問の一端を解明することに繋がり、また、タンパク質の構造を精密に観察することができれば、その仕組みを知ることができるわけです。 タンパク質の働きを、その形から理解しようとする研究分野を「構造生物学」といいます。
現在のところ、我々の住む地球以外で生物は発見されていませんが、近い将来、地球外生命体が発見された場合に、その特徴を正しく理解するためにも、地球上の生命がいかにして今のような形になったのかを知っておくことは非常に重要なことだと言えます。
一方、構造生物学の研究は、生命現象の理解を深めるだけではなく、産業用酵素・医薬品等の研究開発でも応用されています。酵素とは生体で起こる化学反応に対して触媒として機能する分子のことです(触媒とは、特定の化学反応の反応速度を早める物質で、自身は反応の前後で変化しないものをいいます)。
産業用酵素は、身近なところでは洗剤の成分としても利用されていますし、食品加工、繊維加工、環境浄化、あるいは医薬品や血液成分分析など、私たちの生活に欠かせないものとなっています。金属や無機物によって人工的に作られた触媒も広く産業界で利用されていますが、高温・高圧状態でないと反応が進行しなかったり、有害な有機溶媒が反応に必須であるなどデメリットがあります。
一方、生体触媒である酵素は、常温・常圧かつ水中で反応が進行します。そして人工触媒では達成できない困難な反応を進行させるものや、高効率な触媒能力を有するものが数多く見つかっています。
なぜ酵素がこのような化学反応を非常に温和な条件で行うことができるのか、そのしくみを理解することができれば、より安定した素材を用いて模倣し、人工触媒としたり、あるいは酵素そのものを高機能化し、産業用酵素として利用したりすることができるようになり大きなメリットをもたらします。このしくみを理解するのに力を発揮するのが構造生物学の分野です。対象となるタンパク質の構造を精密に観察し、この情報を利用することで、様々な応用が可能になります。
私たちは頭が痛くなったり、熱が出たりすると、薬を飲みます。皆さんはなぜ薬を飲むと頭痛が和らいだり、熱が下がったりするかご存知でしょうか。実は、薬の役割は体内のタンパク質に結合して、タンパク質の働きを調節することなのです。つまり、病気の原因となるタンパク質の働きとそれを発揮するしくみを深く理解できれば、症状をコントロールする薬の設計を行うことができます。
しかし、実際にはなかなか簡単には行きません。私たちの体内には10万種ものタンパク質が存在しているからです。せっかく標的のタンパク質を上手く調節する分子が見つかっても、病気とは無関係の他のタンパク質にも結合できるようだと、他の機能が阻害され身体に悪影響が出てしまいます。数あるタンパク質のうちから、ある特定のものだけを狙って結合し、しかも機能も調節できる分子を探すというのは非常に大変な作業です。
ある特定の標的にのみ作用できる能力のことを「特異性」といいますが、この特異性を向上させる作業にも構造生物学分野は力を発揮します。タンパク質と薬の関係は、よくカギとカギ穴の関係に例えられますが、対象のタンパク質の構造情報があれば、それを基にタンパク質の機能を調節できる部分を探索し、そこにピッタリとハマる分子を設計することが出来るようになります 。