Result

宇宙実験の成果

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ペプチドを利用した次世代型バイオ医薬品の開発

研究の背景・面白さについて

近年、バイオテクノロジー技術の発展に伴い、タンパク質を有効成分とするバイオ医薬品が台頭しています。バイオ医薬品は病気の原因物質をピンポイントで狙えるので、効果的かつ副作用が少ないという利点があります。その一方で、細胞中の標的物質を狙えないなどの制約があるため、これらの課題を克服できる新しい医薬品の開発が求められています。

そこで、当研究室では、タンパク質よりサイズの小さい「ペプチド」を利用した次世代型バイオ医薬品を開発しています。サイズを小さくすることで、細胞内導入が可能となり、これまでバイオ医薬品が対応できなかった細胞内物質を狙えるようになるだけでなく、生産コストを抑えることもできます。通常、サイズを小さくすると医薬品としての機能も低下してしまうのですが、私たち独自の手法で開発した「ヘリックス・ループ・ヘリックス(HLH)ペプチド」は、バイオ医薬品と同等の機能を持ちながら、約50分の1のサイズにまで小型化しています。

宇宙実験の結果・貢献ポイントについて

血管内皮増殖因子 (VEGF) は、血管新生を誘導するサイトカインで加齢黄斑変性や大腸ガンなどの治療薬の標的分子となっています。そこで、私たちはVEGFを標的とするHLHペプチドを開発してきました。開発したHLHペプチドは非常に強くVEGFに結合するだけでなく、VEGF以外の生体分子には全く結合しないことから、次世代バイオ医薬品として、非常に高いポテンシャルを持っているということがわかってきました。

ところが、医薬品開発につなげるためには、HLHペプチドのさらなる高機能化が課題でした。その課題解決のためには、HLHペプチドとVEGFとの結合様式が分かる高分解能の立体構造情報が必要だったので、高品質タンパク質結晶生成実験に応募することにしました。そして、第12回宇宙実験において、1.46Aの分解能を有するタンパク質結晶を取得し、「HLHペプチド-VEGF複合体」の三次元立体構造を明らかにしました。

得られた立体構造から、高機能化の一つとして、HLHペプチドにVEGF阻害剤 (v108) を連結した「HLHペプチド-v108コンジュゲート」を開発することにしました。HLHペプチドとv108を連結する部位やリンカーの長さはX線結晶構造があったため、容易に計算でき、HLHペプチド-v108コンジュゲートの開発はスムーズに進みました。v108は、VEGFに結合する力が非常に弱いのですが、VEGFに強力に結合するHLHペプチドと連結することで、相乗効果を発揮し、非常に強力なVEGF阻害剤を設計することに成功しました。

  • 「HLHペプチド-VEGF複合体」のタンパク質結晶

    図1. 「HLHペプチド-VEGF複合体」のタンパク質結晶

  • 2分子のHLHペプチド (青色、紫色) がVEGF (黄色) とピンポイントに結合している様子

    図2. 2分子のHLHペプチド (青色、紫色) がVEGF (黄色) とピンポイントに結合している様子

宇宙実験で得られた情報をもとに出願した特許

特開 2019-196326 VEGF結合阻害剤

今後の研究について

今後は、医薬品開発へ向けて、本研究成果で得られたHLHペプチドを用いて、動物実験を実施する予定です。また、今回の宇宙実験で得られた情報は非常に貴重であり、大いに創薬研究を加速するものでした、当研究室では、VEGFに限らず様々な標的タンパク質に対するHLHペプチドを開発していますので、これらのペプチドについても、宇宙実験を活用しながら創薬研究に取り組みたいと考えています。

  • 藤井郁雄 教授

    藤井郁雄 教授

  • 道上雅孝 助教

    道上雅孝 助教

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