(トークセッション)
山上 武尊(JAXAインクリメントマネージャ)
西島 和三(持田製薬株式会社医薬開発本部フェロー)
モデレータ:室山 哲也(NHK解説委員)
油井 亀美也 (JAXA宇宙飛行士) |
山上 武尊 (JAXAインクリメントマネージャ) |
西島 和三 (持田製薬株式会社医薬開発本部フェロー) |
モデレータ:室山 哲也 (NHK解説委員) |
トークセッションでは、「「きぼう」の進化、成果最大化へ向けて~期待の、その先へ~」をテーマに、NHK解説員の室山哲也氏の進行の下、油井亀美也宇宙飛行士、山上武氏尊IM(インクリメントマネージャ)、「きぼう」利用ユーザー代表として西島和三氏(持田製薬株式会社医薬開発本部フェロー)の4名で「なぜ今「きぼう」が重要なのか?」、「「きぼう」で何ができるのか?」、「「きぼう」が切り開く未来とは?」の3点を中心に様々なトークを繰り広げました。
- 室山:
- NHKの室山です。よろしくお願いします。これから8時55分までディスカッションということですね。ここに入るときにものすごい行列でびっくりしたんですけれども。もう、油井さん人気ですね。
- 油井:
- いや、そんなことはないです。
- 室山:
- もう、SMAPか嵐のコンサートみたいな感じで。
- 油井:
- いやいや、とんでもない、とんでもない(笑)。
- 室山:
- 若い人が多いんですよね。
- 油井:
- そうですかね。本当にありがとうございます。
- 室山:
- 会場の人、どんな人が来ているのかちょっと聞きたいんですけれども。若い人が多いと聞いているんですが、70歳の人、手を上げてください。いますね。
- 油井:
- どうもありがとうございます。
- 室山:
- それから、60代の人。50代。40代。増える。30代。20代。10代。
- 油井:
- おお。
- 室山:
- はい、10歳以下。あ、10歳以下も。いいですね。NHKのシンポジウムだと、だいたい60、70代が多いですよね。
- 油井:
- 今日は幅広い方々に来ていただいて。
- 室山:
- じゃあ、ディスカッションを。これから何をやるのかというのですけれども、油井さんのさっきのコーヒーの話がおもしろかったですね。
- 油井:
- そうですか、どうもありがとうございます。
- 室山:
- ああいうちょっとしたことが、宇宙ではこんなふうなことになるのだと、好奇心を満たしてくれるというかね。ところが、最後に油井さんが、メインは研究なんだ、実験なんだと言いましたよね。
- 油井:
- 私たちの本当にメインの仕事なので。そのために宇宙に行っていますからね。
- 室山:
- そこが僕らはいまいちわからないと。日本人の宇宙飛行士は、最初は秋山さんから始まって、油井さんで10人目ですよね。それで、毛利さんが1992年に行かれて、もう20年以上たっていると。日本人の宇宙飛行士が営々と宇宙に上がって仕事をしてきたと。以前、コピーライターの糸井重里さんがNHKの番組の中で、油井さんが指でボタンを押そうとしているときに、この指先は油井さんの指先ではなくて、日本人みんなのものだと言っていましたね。
- 油井:
- そうですね。そのとおりですよ。
- 室山:
- 今日聞いていて、それをすごく感じたんですね。だから、油井さんという存在がシンボルになって、いろんな人の思いがここで結晶化しているんだろうと思います。それで、皆さんに質問する前に、今日何の議論をするかだけお伝えしておきますと、こういうふうにして有人宇宙開発といって、人間が宇宙に行っていろんなことを活動していくのですが、実は今、今日聞いて僕も非常に興奮したんですけれども、こういう有人宇宙開発をこれから日本がどうしていこうかという岐路に立っているということですね。ここにいる人はもう宇宙大好きの人が多いと思います。例えば、『宇宙兄弟』好きな人。ほら。みんな仲間ですよ。
- 油井:
- おお、ほとんどですね。兄弟ですね、みんなね。
- 室山:
- ここの3人も『宇宙兄弟』読んでいて。僕も読んでいるんですけれども。ただ、日本全体から見ると、有人の宇宙開発をこれからどうするんだっていう大きな議論があります。具体的にいうと、宇宙開発の予算をどうするんだという議論があって。例えば、「きぼう」を運用していくときに1年で400億円かかっていて、今まで8000億円投資したということですね。いろんな重要な仕事をしてきたんだけれども、日本のお金には限界があるので、そんなにお金を使うのかという議論が実はあると。そういう目で今の日本の有人宇宙開発が見られていて。今日は、なぜ有人で宇宙開発をしなければいけないのか、なぜ「きぼう」がいるのか、それが僕らの未来をどう作るのかということに対して、これはNHKでもやるんですけど、なかなか伝わってない。油井さんのコーヒーの話は伝わるんですけど、油井さんの先輩たちがずっとやってきたこの仕事が、どういう意味があって、いまどうなっているのかわからないので、今日はそれについて、なぜ重要かということを3人の立場から、油井さんは宇宙飛行士、山上さんはこの「きぼう」をどういうふうに使っていくかというプロデューサーですよね、それから、薬のほうから西島さんが説明していただくということになっているということです。だから、私が今日聞きたいのは、なんで「きぼう」が必要なんだと。「きぼう」がどんなに重要なのかということを話してくださいと、こういうことです。もう、僕はあとは質問だけしますね。
まず山上さん、今まで、僕もNHKで番組をやっているときに、いろんな話を聞きますよ。宇宙行って、ISSでお金を使っていると。だけど、年間400億に相当するバックがあるのかと。400億円の価値があるのかと言われる。それで、議論を聞くと、そのお金があるならば、例えば「はやぶさ」のような無人の探査をやったり、地球観測衛星をもっと飛ばしたり、お天気衛星のようなものをやったり。宇宙開発以外でも、福祉だとか弱い立場の人がいっぱいいるじゃないかと。そこにお金を使わずになぜ400億円使うんだと聞かれるわけですね。今までずっと言われてきたんですよ。ところが、山上さんが言うには、今は違う時代に入ったと言われました。そのことについて説明してください。
- 山上:
- 「きぼう」が完成したのが2009年なんですけれども、宇宙実験を「きぼう」の中で始めたのは、その途中段階から、すぐに利用できる段階からということで、2008年から始めました。やっていく中で、最初は宇宙実験をやっていくということで、いろいろ分からないこともある中で、手探りで一つひとつ実験をやっていって、成果を出していく、データを取っていくと。そうやって様々な実験をこれまでやっていく中で、ようやく、どういった分野が社会に直接貢献できるか、そういう実験テーマがあるとか、日本が持っている技術が世界の他の国になくて、優位に成果を出していけるかというのが分かってきたんですね。
- 室山:
- 見えてきたってことですね。
- 山上:
- 見えてきた。
- 室山:
- 今まで見えなかったんですか?
- 山上:
- 今まではですね、もっといろんな可能性を持って、いろんな実験をやってきました。ところが、そう簡単にはいかない部分もあって。ただ、そういう中で一つひとつこなしてやっていく中で見えてきたというのが今の状態です。
- 室山:
- そうですか。その見えてきたことは、このあとお話しいただきます。山上さんはヒューストンに駐在されていたようですけれども、アメリカにおける日本人のステータスというんですか、日本人が外国からどう見られているか、ずいぶん感じたと言ってらっしゃいましたが、どんな感じでしたか?
- 山上:
- 日本人、一般的にですけれども、きちっと仕事をするというのは、はっきりと。それはNASAの中でも、ヨーロッパのスペースエージェンシー、ロシアのスペースエージェンシーの人からもそう見られているというのはわかりました。
- 室山:
- なるほど。日本人の9人の宇宙飛行士の評判はどうですか?
- 山上:
- いいんですね。すごくいいです。まあ、ここだけの話ですけど。
- 室山:
- まあ、何でも言えばいいです。
- 山上:
- やっぱりですね、整理整頓が苦手な人が多いんですね。これ、実はですね、宇宙ステーションの中であんまり問題にならないんですけど、やっぱり物をきちっと整理整頓しないと何が起こるかというと、どこかへ物が行っちゃったってなるんですね。そうすると、それを探すんですよ。ところが、日本人は基本的に地上の管制要員も、それから宇宙の飛行士も、きちっとルールを守ってしっかりとしまってくれるんですね。今、だいたい毎年日本人の宇宙飛行士が宇宙に行ってくれるんですけど、その都度きれいに片付けてくれると。それは、本当に地上の、NASAの運用の担当者のほうから、責任者のほうから「もっといてくれ」と。
- 室山:
- そうですか。
- 山上:
- 当時、2012年のとき、星出飛行士が行っているときなんかは、もうニコニコしながら、「もっといてくれ」と。
- 室山:
- 人気があるんですね。
- 山上:
- 「本当に助かる」と。
- 室山:
- 油井さんもきれい好きなんですか。
- 油井:
- 宇宙ステーションにいるときはそうなんですけど、実は家に帰ってくるとやらないので、妻によく怒られているんですけどね。でも、宇宙ステーションでは本当にしっかりとやって。
- 室山:
- 奥さんが、「宇宙ステーションでできるのに、なんで家でやらないの」と
- 油井:
- これ、まさにこれを言われました。帰ってきたときに。
- 室山:
- だいたい、どの家の奥さんもそんなことを言うんですよ。仕事場ではちゃんとやっているんですよね。
- 油井:
- そうですね。できるんですけどね。
- 室山:
- どうですか、日本人宇宙飛行士の評判と、油井さんに聞くのもなんですが、実感しました?
- 油井:
- そうですね。私自身も、こういう整理整頓もそうですし、実験もしっかりやってくれるので、これをやってくださいという依頼が来ているというのは聞いていました。あとは、やっぱり、帰ってきたときに、実は今までこれは3年間うまくいなかった実験で、「これが最後のチャンスだったのに、君はトレーニングもしないのにこれを成功させてくれた。これがどれだけすごいことかわかっているか」と言われて、聞かなくてよかったと思いましたけどね。聞いたらプレッシャーになるので(笑)。
- 室山:
- やっぱり、9人の先輩方が残したものっていうのは実感ありましたか?
- 油井:
- そうですね。やっぱり、これは一つひとつ積み上げてきた信頼というものがあって、そしてそのバトンを若田さんから私が引き継いで、これをまた大西さんに渡すということかなと思いましたけどね。
- 室山:
- 山上さん、そういう財産を日本はすでに持っているということですね。
- 山上:
- そうなんですね。ちょっと伝えたいことがあるのですが、先ほど、油井飛行士の説明の中であったんですけど、私がヒューストンにいたときに、「きぼう」がほかの国になくて、非常に羨ましがられている。そういう機能・サービスを持っているというのを、非常に現地でも言われました。その一つが、先ほどあった、タンパク質の実験をやる環境ですね。これはもうすごいです。あと、もう一つは、「きぼう」にしかないサービスとして、専用のエアロックとロボットアームを使って、小型衛星を放出できると。
- 室山:
- あとでそれを言っていただきます。西島さんは、企業から見て、この「きぼう」というものがどんなふうに見えているか、ちょっと感想を言っていただけますか。
- 西島:
- 皆さんが思っているよりも、薬を作るっていうのは非常に大変で。今だいたい、3万の化合物を作って1個ぐらい。
- 室山:
- 3万作って1個薬ができると。
- 西島:
- 1個くらいしかできません。確率がですね。それから、年月からいうと、このタンパク質結晶からデザインして薬を作ったとして、だいたい15年から20年かかります。お金からすると、700億から1000億くらいかかります。
- 室山:
- それ、一つの薬を作るために?
- 西島:
- はい。そのくらいかけないと作れません。今は。例えば、私が30年前に会社に入ったときは、だいたい10年かけて1万化合物から1個で100億といわれましたから、いまものすごくお金がかかっている。その一つの理由は、克服しようとする薬が非常に難しいんですね。血圧を下げるとか、熱を下げるとか、炎症を治すとかいうのではなくて、例えば認知症とか、それから難しいがんとか、それから糖尿病合併症とか、精神疾患とか、そういう難しいものしか残っていないので、これまでの経験ではなくて、合理的に作らなければいけないと。
- 室山:
- そういう薬をどんどん地上で開発している中で、今回「きぼう」で新しい薬を作るんだというのが、今までよりもアクセルが入ってきたと聞くのですが、やっぱり宇宙空間で薬を作るというのは重要なことなんですか?
- 西島:
- そうですね。2000年に入ってから、私たちはSPring-8という世界一の機械でタンパク質の結晶構造解析を行っていて。
- 室山:
- SPring-8というのは、兵庫県にあるあのでかい施設ですね。
- 西島:
- そうですね。
- 室山:
- あれを使うと、小さいものが細かく分かるわけですね。
- 西島:
- そうですね。あれで結晶構造を解析できるっていうことです。
- 室山:
- 結晶構造を。はいはい。分かるわかる。
- 西島:
- これですね。
- 室山:
- これですね。丸いところで解析をやるんですよね。
- 西島:
- X線の大きな放射光というものが発生されるということで、それに結晶をぶつけると、結晶の構造が分かるということなんです。タンパク質の構造解析が。
- 室山:
- これからご説明いただきますが、要するに、宇宙空間でいろんな病気の人の体から取ったタンパクというんですかね、元を育てて。で、大きく育つということで、そいつをこれで調べると、どういう仕組みになっているかよくわかるので、その仕組みに合わせた薬をピンポイントで作れると、こういう話でよろしいんでしょうか。
- 西島:
- もう一つ言うならば、実はですね、大きいというよりは精密な情報が欲しいんですね。あとで出てくると思うんですけれども、タンパク質の精密な構造が欲しいということで。しかも、これからの難しい薬のタンパク質というのは、量をためられないので、少ない量でということになります。
- 室山:
- はいはい。じゃあ、薬の話に入ったので説明しましょうね。これ、どういうことですか。まず、もういっぺん確認。いろんな病気がありますよね。がんだとか、成人病、心臓病、それから、体が動かなくなる筋ジストロフィーとかね。いろんな方の病気の体のタンパクがどういう仕組みになって、どういう薬をそこにはめれば治るかを調べるときに、どういうタンパクなのかを調べないと薬ができませんということですね。まずね。
- 西島:
- 今日は非常にわかりやすく説明するために、例えば悪さをするタンパク質というものがありまして、悪さをするタンパク質と、当然、いいタンパク質もあるわけですね。悪さをタンパク質のその活性の中心部というものがこういう状態になってきますと、隣にはいいタンパク質も当然あるわけですね。そうすると、いいタンパク質の部分の活性と、それから、悪い部分のタンパク質のこの部分に薬を入れたら治るよというときに……。
- 室山:
- あ、ここのところにカパッとはまる薬が必要なんですね。
- 西島:
- うん。そうすると、これもこれもみんな入ってしまうようになってしまうので。
- 室山:
- ぼんやりしているから、どれかが分からんと。
- 西島:
- ぴっちりいいものが作れない。
- 室山:
- これは、地上でタンパクを結晶化させて調べたら、これくらいしか、ぼんやりしか分からんということですね。
- 西島:
- そうですね。そうすると、いい結晶が、優れたというか、きっちり入るタンパク質を作れないということは、逆にいうと、効き目が悪いし、もしかすると、これは実は隣にも入ってしまう可能性があるんですね。そうすると、その薬がいいタンパク質にも入ってしまうと、それは副作用にもなるし、それから、たくさんの薬を飲まなきゃいけないようになってしまう。
- 室山:
- そうなんですか。
- 西島:
- そこで、この活性中心の部位をしっかり見極めて、これは二次元ですけど、実際は三次元構造で。そうすると、この薬がいいよとわかれば、この薬は悪さをするタンパク質を止めるんだけれども、しかし、いいタンパク質のほうには作用しないということで、副作用をなくすことはできませんけれども、少なくすることはできるということです。
- 室山:
- 宇宙で結晶化したタンパクは、こういうふうにはっきり見えるんですね。
- 西島:
- こういうふうにきれいにそろったタンパク質で、そうすると、放射光とかX線構造解析できれいな結晶構造が見えます。そうすると、これに見合ったタンパク質をデザインできますし、それから、ちょっと話が難しくなりますが、こういうものを鋳型としてコンピューターでスクリーニングすると、100万の化合物を選ぶときのスピードもアップされると。
- 室山:
- 皆さんついてきていますか? だいたいわかる? 雰囲気でいいです。だいたいの雰囲気で。そうすると、こういうふうにパッチリとここにはまるやつが、宇宙で作った結晶から見ると、これだってことがもうピンポイントでわかるので、パチっとここにはまるやつが効率よくできると、こんな感じですかね。
- 西島:
- その感じでよろしいと思います。
- 室山:
- じゃあ、もう一つ。それで、「きぼう」でこういうようなことをすると、地球上でできなかったいろんな薬が早くできるようになるんだけど、具体的にいうとどういう病気が治るんですか?
- 西島:
- 今ニーズとして言われているのは、やっぱり認知症とか、難治性のがんとか、精神疾患とか。あるいは、糖尿病の合併症とか、そういうものだと思います。
- 室山:
- あと、筋ジストロフィーなんかもそうですよね。
- 西島:
- もちろんそうだと思います。
- 室山:
- やっぱり、さっきの、この大きなお金を福祉に回せみたいな意見があるけれども、その福祉の人たち、あるいは病気の人たちが求めている薬が地上にないから、宇宙という所に行って、次のステップに行くんだと、こういう感じでいいんですかね。
- 西島:
- 地上でもできるタンパク質はどんどんできているんですね。タンパク質のデータバンクには、もうかなりの数が入っているんですけれども。ただ、例えば、膜タンパク質とか、そういう難しいタンパク質はどんどん残っていて、その解像度が悪いので、少なくとも新しい薬をデザインするとか、新薬を作るという情報としては十分ではないということなんです。
- 室山:
- 山上さん、さっきから何か言いたそうですけど、何か言いたいんですか。
- 山上:
- 言いたいんです。それを、いま私たち、作っています。そういう環境を作っています。
- 室山:
- 分かっています。
- 山上:
- 先ほど、他の国が羨む技術という話があるところで、先ほどタンパク質実験の話をしたんですけれども、日本だけなんですね。まず、研究者の方やユーザーからサンプルを預かって、そして、それを、今まで積み重ねてきた、ずっと積み重ねてきたノウハウを使って、いかに結晶を作れるかっていう条件出しとか、そういった仕込みをできるんですね。そこから始まって、軌道上に打ち上げて、実験をやって、持ち帰って、さっきのSPring-8でX線を当てて構造解析までして、そのデータをユーザーに渡す。そこまで一つのパッケージにして、そういう提供ができるということをやっているのは、JAXAだけなんですよ。
- 室山:
- そうすると、企業から見ても、宝の山というか、うまく連携するといろんな価値が生まれるものだという感じでいいんですかね。
- 西島:
- そうですね。それともう一つには、今世界の中で新薬を、探索から全部作れるという国は、たぶん10か国くらいしかなくて。世界で売れている上位100品目、売上ですけれども、その中の13品目が日本がオリジナルなんですね。
- 室山:
- 日本が何位でしたっけ?
- 西島:
- 3位くらいですね。1位はアメリカで、これは創薬ベンチャーが活躍しているので、これが40%以上を占めています。
- 室山:
- 2位が?
- 西島:
- 2位が統計の種類にもよるんですけど、スイスが強いと言われています。それから日本、イギリス。
- 室山:
- ほかのアジアの国はどんな状態ですか?
- 西島:
- アジアは入っておりません。アジアでは日本唯一です。そのほかはイギリスとか、ドイツとか、フランスとか、スウェーデンが来ていますけれども。アジアというのは、製造するとか、臨床試験を行うとかはできますけれども、いわゆる創薬、さっき言った、15年かけてしっかり最初から最後までやるということができるのは日本だけです。
- 室山:
- アメリカやスイスはこういうふうに宇宙で、同じような創薬の研究をしているんですか?
- 山上:
- していますね。実験もしていますね。
- 室山:
- 日本とどっちが上なんですか?
- 山上:
- 上下っていうとあれですけど、日本がより効果的な成果を出しているというのがあります。
- 室山:
- 日本がちょっと先行しているんですね。
- 山上:
- 今から2年位前に宇宙ステーションの利用の成果を、各国で協力して、NASAが主導でシンポジウムをやったんですね。そのときに、それまでの間で宇宙ステーションで得られた成果の1丁目1番地で出したのが、JAXAのこのタンパク質実験で得られた筋ジストロフィーの実験の成果なんですよ。これはですね、本当にNASAからすると、もともと私たちはNASAと一緒になって、先生についてずっと研究をしてきました。その中でずっとコツコツコツコツ、コツコツコツコツ積み上げてきて。先ほど言いましたけども、どうやったら宇宙の環境で大きな結晶が作れるか、これ、ノウハウになっているんですよ。それを続けてきた成果として、こういうふうにいま至っている。
- 室山:
- 筋ジストロフィーというのは、だんだん筋肉が動かなくなって、体が動かなくなっていくので、脳の中では考えているんだけど、それをもう表現できなくなっていく病気ですが、僕は友人がいるんですよ。あのニュースをすごい喜んでいましたよ。だから、「おお、なかなか『きぼう』はやるな」と。実は個人的にはそのとき思ったんですよね。油井さん、今みたいな難しいことを、やっぱりそういう医学的なことも勉強してやらなければいけないという?
- 油井:
- そうですね。やっぱりそういうことを勉強してやると、そのサンプルを作るときに、どういうところに気をつけなければいけないのか、なるべく揺らさないようにしないといけないとかですね。あとは、その意義が分かって、その研究者の顔が見えると、その後ろに、やっぱりすごく自分としてもやりがいがあるし、今回もその結果というのは、実はいい結果ができましたということでお礼を言われると、やっぱりうれしいですよね。
- 室山:
- そうか、自衛隊時代とはだいぶ違いますか、仕事は。
- 油井:
- そうですね。自衛隊は自衛隊でやりがいもありましたけど、宇宙飛行士は宇宙飛行士で。
- 室山:
- ここはバランス取らないとね。
- 油井:
- そうですね、すいません、自衛隊の方々もここに来ていると思いますので。
- 室山:
- もう一つの、さっきのPowerPointを出しましょうか。小型衛星ってありましたね。あれ、出ますか。左側の超小型衛星放出、これがですね、いかに重要なことかがよく分からないので、ちょっと教えてください。
- 山上:
- これですね、「『きぼう』3つの進化で世界をリード」という話で挙げている一つのものなんですけど、これができるのは、先ほども話しましたけれども、「きぼう」だけなんですね。「きぼう」で専用にエアロックを持っています。
- 室山:
- まず、超小型衛星は……、衛星って大きいじゃないですか。でも、小さいんでしょう?
- 山上:
- そうですね。小さいもので10cm四方のキューブの形になっています。
- 室山:
- 大きい衛星にできなくて、小さい衛星じゃないとできないことって何なんですか? いま超小型衛星の時代に入ると、よく聞くんですが、どんな時代が始まるんですか?
- 山上:
- まず、次のページいいですかね。4重保護の、これですね。今まで、小さな衛星っていう話、いろいろセンサー関係でどんどん技術が発達していますけれども、小さな衛星を打ち上げるときっていうのは、こういう大きな衛星に一緒に相乗りする形で打ち上げていました。ところが、いまこの新しい打ち上げの形態の話になって、この「きぼう」で放出する衛星の話になると、4つの保護で守られる形で衛星が打ち上げられることになります。左側に、いま金色になっているのがHTVなんですけど、ロケットの先端に所にフェアリングというカバーがあるんですけど、まずそこに囲まれます。次に、補給船、HTV自身でまた保護されます。その次に、この右上にあたるマル3番で、HTVの中で普通のソフトバッグにくるまれます。ソフトバッグの中では、今度は緩衝材を使って衛星が守られるんですね、4重に。これが打ち上げのときに振動環境というのが非常に楽になるんですね。衛星を作るとき、設計するときに一番大事な話というのは、打ち上げの環境に耐えられないと、軌道上に行っても、壊れちゃったら何の意味もないですよね。なので、そういうデザイン・設計をして、壊れないように設計をして、壊れない部品を使って、そして実際に上げて。上げても大丈夫なように試験もして、打ち上げると。そこのところがグッと楽になって、設計もそういうデザインに変えていくことができるし、試験の短縮もできるし、お金もかからなくなるという形で、新しい形。
- 室山:
- 安い? 安くあげられるの? たくさん安く?
- 山上:
- 新しい人工衛星の形、大きくチェンジしていく、そういった話になるんですね。こちら。
- 室山:
- なるほど。油井さん、ちょっと補足してくださいね。僕がこの前、NHK解説でやったのを言いますよ。30秒でね。大きな人工衛星がありましたと。小さい人工衛星、いっぱい作る時代になりましたと。それぞれの会社とか、大学とか、お金を持っていない国が自分たちのやりたいこと、例えば砂漠化だとか、森林の様子、農業の作物、それから、北極海を行く船の会社は、そこの氷の解け具合を自分の目的のために調べる衛星が欲しいと。マイ衛星が欲しいと。安い、しかも、これは秋葉原の部品で作るようなこともできると。こういう衛星がいっぱい上がって群れ飛行を始めることで、今までの大きなでかいやつでできないようなことができ始めると。しかも、日本はこれは十八番だと。だから、この小型衛星の時代というのは新しいページが開くのですと、僕は解説したのですが、それでいいんですか?
- 油井:
- そのとおりですね。それを開くのが、やっぱり日本が中心になって、「きぼう」を使ってということになると、やっぱりそれが素晴らしいと。
- 室山:
- それを「こうのとり」で運んで、放出されたんですよね。
- 油井:
- そうですね。
- 室山:
- どうなんですか。放出って、僕、よく分からない。あれは、ピュッと投げるんですか?
- 油井:
- いやいや、実は、まずは宇宙飛行士は、そのドアを使って宇宙にその物を出します。取り付けて出します。で、それをロボットアームで、実はそのロボットアームはすごい技術で、実は地上から遠隔操作しているんですけども、それで発射の位置に持っていって、私がスイッチを入れると、その衛星が、止めていたものがパカっと開いて、そのバネの力で飛び出すと。
- 室山:
- 出ていますね。あれ、そうですか。
- 油井:
- はい。
- 室山:
- これは誰が撮ったんですか?
- 油井:
- これはチェル飛行士だと思いますね。私が放出している間に。
- 室山:
- 宇宙空間から撮ったんですか?
- 油井:
- キューポラという窓から。
- 室山:
- あ、窓から見える?
- 油井:
- はい。これが見えるんですよ。私の時はブラジルの小型衛星も放出しましたけれども、これを撮って、やっぱりこれが成功すると、その関係者も喜んで。私がいつも言っているんですけど、その国との関係が、ブラジルとの関係が宇宙開発を通じてよくなると。そういうところも、直接は見えないですけれども、成果としてね。
- 室山:
- 山上さん、これをまとめますと、世界的にこれから小型衛星の時代に入ると。大型もあるんだけれども、大型にできないいろんな仕事ができる小型衛星の幕が切って落とされると。ところが、「こうのとり」にはいっぱいそれを載せられて、安くて、いっぱい載せて、それから、振動も与えずに優しく放出できるので、日本が小型衛星の時代からいうとリーダーになりうるというような感じでいいんですか?
- 山上:
- そうです。日本しか、今できてないんですね。だから、本当に今、先ほどもありましたけど、すでに2012年からこの放出を始めているんですけど、米国の衛星も含めて、もう100基超えています。本当にみんな、載せたい、載せたいという話をしていて。もちろん、「こうのとり」で上げることもできますけど、ほかの国の輸送船でも上げることができます。
- 室山:
- なるほど。だから、こういう「こうのとり」とか「きぼう」というものの存在感が、社会の変化の中でますます重要になっている構図だということでいいんですね。
- 山上:
- はい。それが言いたいです。
- 室山:
- 西島さん、医学から見た時にもう一つありましたね。基礎研究のやつですね。あれはどういうふうに評価しますか?
- 西島:
- いわゆる、健康長寿ですね。
- 室山:
- 健康長寿社会、これは何が新しくなったんですか、結局。
- 西島:
- まず一つ考えなければいけないのは、私たちの日本というのは平均寿命は非常に長いんですけれども、健康であると言われる健康寿命と10年くらい差があるんですね。やっぱりこの高齢化社会を迎えて、私たちが健康で長生きするということが大変重要だということです。
- 室山:
- これは薬作りじゃなくて、「きぼう」でマウスか何かの基礎研究をやるんですか?
- 西島:
- いや、これはエピゲノム変化という、いわゆる環境によって変化する状況があるんですけれども、それを追跡するというような形を考えています。その中で動物もやるんですけれども、こういった生命に関わるものが、地上よりも宇宙では早く加齢するとか、あるいはそういう過酷な条件の中でのストレスがありますよね、そういうものに対して、薬がどういうふうに役立つかということを解明しながらやるということです。
- 室山:
- 分かりました。山上さん、今いろいろといいことを言いましたよね。年間400億はそれで取り戻せますか?
- 山上:
- 取り戻せる成果を今出そうとして、今取り組んでいます。
- 室山:
- これから、たぶん油井さんが言うと思うんですけれども、いろんな事業は金だけじゃないぞというのはありますね。たぶん油井さんが言うと思うんですけど。今、お金の話をしているんですよ。で、400億を取り戻せる成果があるならば、やったほうがいいですよ。だけど、400億取り戻せないんだったらば、あんまり儲からないんだからやめなさいという意見が出るけども、そこの部分はどう思われますか?
- 山上:
- やらないと分からないです。今も、先ほどの健康長寿社会の話もそうですけども、今地上でも人間により近いマウスを使った実験をしています。そして、宇宙ステーションの中、微小重力の環境というのは、先ほど西島先生がおっしゃっていましたけれども、より加齢していく加速していくスピードが速いと。で、地上での研究と、そしてそういう環境がある軌道上での研究、これを一体になって、より、加齢研究、疾患の研究を進めていくと、そういうことに役立てていくと。
- 室山:
- 宇宙空間でやるから、初めてのことばっかりなので、どういうふうに大化けするか、やってみないと分からないことがいっぱいあるわけですね。
- 山上:
- そうです。試してないですからね。
- 西島:
- いや、たぶんですね、始めてこれだけ投資すればこれだけ儲かるよということが計算で本当に出るのであれば、それは産業界がやってしまうし、既知の延長だと思うんですね。新しい発見とか、そういう革新的なというものについては、やはりそういう場が与えられて、そこでやってはじめて分かるという、基礎研究はそうだと思うんですね。
- 室山:
- それこそがJAXAがやるべきだということなんですね。
- 西島:
- そうだと思います。それともう一つは、薬の開発というのは、要するに最先端の研究をぜんぶ結集して、そして大型装置も使うんですね。国民の方々に聞いてみると最先端研究で何に一番成果を求めますかというと、だいたい6割、7割は、やっぱり健康、あるいは医療の向上、あるいはいい薬を作って欲しいということなんです。地上を見ると、日本は大型施設に大変恵まれて。先ほど言った、結晶構造を行うSPring-8、あるいは中性子実験装置J-PARCとか、それからスパコン京、ああいったものによって、我々は最先端を使って複雑な薬を見い出すっていう環境があるんですね。そこに宇宙というものが来て、宇宙でより綺麗な結晶が出れば、その結晶をSPring-8で構造解析して、スパコン京を使って、ドッキングスタディーとか、難しくなってしまうんですけれども、そういう設計をやって作るということですが、そういう意味では、「きぼう」というのは地上にある大型施設を生かすための一つの重要なツールというふうに考えることが出来る。
- 室山:
- 「きぼう」が今までのビッグサイエンスをつないで。
- 西島:
- そうだと、思います。
- 室山:
- 相乗効果を作り出してくれるものになるということですね。
- 西島:
- そうですね。おそらく、地上にある、いま共用促進法という、皆さんが使うようになっている、SPring-8とか、自由電子のSACLAとか、スパコン京とか、J-PARC、この維持費はたぶん400億くらいだと思いますので、地上で400億ですから、宇宙ならばそのくらいかかるだろうというのが私の考え方です。
- 室山:
- なるほど。このあいだ、はやぶさの川口さんが書いたのを読んでいたら、いいことを言っていましたよ。例えば、今までにない望遠鏡を作ると、予算を出してくれと。そうしたら、出す人が「何が見えるんだ」と。「いや、新しいものを見つけるからいるんだ」と。だから、似ていますよね。何が見えるかわかっていたら、その望遠鏡はもういらないわけですから。「きぼう」という場を持つことで、僕らが、人類がまだ知らない何か別の幕が開くかもしれないってことですね。それはやってみないとわからない部分ということですね。
- 西島:
- そうです。
- 室山:
- さっきの400億に満たないうんぬんは、わかっているところだけでも、400億にちょっと満たないという感じですか。まあ、あんまり、難しいね。帰りの電車もありますので、55分までと聞いているので、まとめを一人ずつに聞いていきたいと思うんですけれども。油井さんは最後にしましょうね。そうしたら、西島さん。今日、若い人が多いんですよ。大学でも教えてらっしゃると思うので。油井さんはまだ若いですけど、僕らはもう年ですから、あと20年経つといないと思うんですよね。だけど、彼らはいる。日本を作るのは彼らなものですから、彼らに対してメッセージを。宇宙って何なんだと。宇宙の何をやってくれというメッセージがあればお願いします。
- 西島:
- やっぱり、先ほどから言っているように、この「きぼう」というものが、日本人が使えて、しかも日本人の宇宙飛行士がそこに居合わせてくれるというのは大変大きいと思います。オートマチックといいましても、最後の大事なところはやはり日本人が見守ってくれて。例えば、重要な機械とか装置を持っていってトラブルになったとき、やはり日本人でそれを動かしてくれる。これからの研究というのは、やっぱり儲けだけではなくて、先ほども言いましたけど、生命科学の場合はそれによって患者が救われる、それから、健康寿命が延びる、介護が少なくなる、そういった社会を作るっていうのは、100億投資したから何億儲かるということではなくて、国民全体が健康で夢を持てる、あるいは夢を叶えられる健康状態を維持できる、そういうものが大きいと思うんですね。若い方には、この宇宙の場をどういうふうに使って、新しいテーマというものを考えて、JAXAとしても10%、20%の時間なり空間を若い人のテーマのためにすると。要するに、お偉方が審査をして、私も審査をやっているんですけども、そういう方が選ぶのではなくて、価値がないかもしれないなというようなものについて、やってみようと言う。ノーベル賞の山中先生も、通常の考え方からいうと、なかなか実現は難しいということで入ったんですけれども、そういうものほどおもしろいという審査をいただいて山中先生は資金をもらったと聞いていますから。そういうものが、やっぱり日本にはこれまであったので。その伝統を生かしたいというふうに思いますけど。
- 室山:
- 今そういう上司は少ないですよね。
- 西島:
- そうですね。
- 室山:
- 会社で上から文句ばっかり言ってね。今日僕が来て驚いたのは、若い人がこんなにいるのはね、本当にびっくりしたんですよ。「さすがJAXAですね」って、最初に僕言ったんですけど。やっぱり、宇宙っていうものに何かを感じているんでしょうね。
- 西島:
- そうですね。夢を感じるんだと思うんですね。
- 室山:
- それが何なのか分かんないけど、たぶん本能的に何かを皆さん感じていて、この難しい話題では、たぶん半分くらいになるぞと言ったんですけど、まだ帰らないので。やっぱり何かを感じてらっしゃるんだと思います。山上さん、どうぞ。
- 山上:
- 私は、今日本の宇宙開発、有人宇宙開発、まあ宇宙開発ですけど。先輩たちがまずロケットを開発して、物を打ち上げる力をつけてくれました。そして、宇宙ステーションを作って、有人の滞在する実験室を作ってくれました。そして、物資を補給する「こうのとり」を作ってくれました。そして、今ここで、施設を、「きぼう」を使って、社会に直接貢献していけるような、健康長寿社会に貢献していくような、そういう実験ができて、そういう成果が出せるというところまで来ました。他の国が持っていない、本当に日本がうらやましがられるような、そういう環境・施設を、今「きぼう」で持っています。ここまで来ていよいよその成果を出すところに、今新しい時代に来ました。とにかく若い人たちに伝えたいのは、やっぱりこのあとまたどんどん進めていかなきゃいけないと思うんですね。これは、先ほど言ったタンパク質実験も、小動物を飼育する実験も、別に日本だけがやっているわけじゃないんです。ほかの、NASAだってやっているし、ロシアや他の国だって、みんなやっているんですね。その中で先駆けて走っているのが、今の日本の状態なんです。だから、これは止めちゃいけないと思っています。とにかく、私の今の仕事は、とにかく成果を出せと、早く出そうと、そのために全力を尽くせと、上のマネージャーから言われています。それを、やっぱり若い人たちには続いていって欲しいと。私にはあんまり関係ない世界と思わずに、皆さん、若い人たちがついてきてくれないと、やっぱりそれは止まってしまいますので。止まってしまうと、やっぱり競争の世界だから抜かれます。なので、やっぱり皆さん、若い人たちにはぜひチャレンジして、一緒にこの宇宙開発、宇宙利用を進んでいってほしい、来てほしいというふうに思っています。
- 室山:
- 最後に油井さん、太陽系大航海時代が始まると、このあいだある本で読みました。
- 油井:
- はい。
- 室山:
- 月に行き、火星に行き、人間がなぜ宇宙に行くのか、たぶん宇宙文明の時代にこれから入るんだけれども、人間がなぜ宇宙に行くんだ、なぜ有人宇宙開発なんだということについて。
- 油井:
- 私はもう本当に、私自身がそうなんですけど、もう本当により高く、もっと速く、もっと遠くへと、より高く。やっぱり、人間はそういう本能を持っているんじゃないかなと。私自身がそうなんですけれども、人間は活動の領域を広げいく、これが非常にもう本能として備わっていて。それがあるときは社会が活性化するし、若い方々も夢を持ってさらに明るい将来を見据えて努力ができると。そういうところがあるんじゃないかなと思っています。ですから、やはり、皆さん、ここに来てくださっている方々、宇宙開発と聞いて、わくわくしてくれているんじゃないかなと思うんですけど。先ほど言ったとおり。そのわくわく感というのは、そういう本能からくるんじゃないかなと。それはやっぱり、人が行かないといけないですし、だからこそ、私が宇宙からTwitterでつぶやくと、みんなが共感をして、さらにメッセージを送ってくれるんじゃないかなというふうに思いますけどね。
- 室山:
- それは人類共通のことですかね。
- 油井:
- そうですね。私はそう思っています。人間しかできないので。いまこの地球上に住んでいる生物の代表として、それをやっていかなきゃいけないんじゃないかなと思っていますけどね。
- 室山:
- その中で日本人が名誉ある地位を得て、君らがいるとうれしいと。一緒にやろうよと言って欲しいですね。
- 油井:
- はい。私自身、本当に夢があって。日本は優れた科学技術を生かして、国際社会に貢献して、他の国から尊敬され、頼りにされる国であって欲しいと、それができるのがやっぱり宇宙開発の分野なので、そこはしっかりやっていきたいなと思いますけどね。
- 室山:
- ありがとうございました。時間になりました。今日、ざっくばらんにいろいろお話を聞いたんですけども、なかなかJAXAもいい職場だなと。こういう情熱を語れる場っていうか、本当に日本ではだんだん少なくなってきているものですから。やっぱり、「宇宙」というこのキーワードが日本も変えて欲しいし、夢を見せて欲しいし。それから、人間は好奇心の生き物ですから、知らないことを知りたい、知らない所に行きたいということが、もしも止まれば、人間の進化そのものが止まったときかもしれないですね。だから、そういう意味で、今日の話は、自分が人間なんだということを思い起こさせてくれるような、そんな感じがしました。今日の話を皆さんはどういうふうに聞いたでしょうか。生々しい、いろんな生の言葉を出しましたけれども、それぞれ反芻していただいて、自分の言葉にしてお持ち帰りいただければと思います。今日はありがとうございました。パネリストの方に大きな拍手をお願いいたします。
閉会挨拶:浜崎 敬(JAXA理事・有人宇宙技術部門長)
皆さま、本日はお忙しい中、油井宇宙飛行士のミッション報告会に多数ご参集いただきまして、誠にありがとうございます。また、油井飛行士のミッション中にも多くのご声援、また、ご支援を賜りました。これにつきましても、あらためて厚く御礼申し上げます。
本日は2000名を超える方々にご参集いただきました。また、インターネットライブ中継ではあ、1万3000名を超える皆さまにご視聴いただいているというふうに伺っております。一つ意外でございましたのが、本日来られている方々の60%が女性でいらっしゃいます。油井飛行士は、ご承知のとおり、常日頃、私は普通のおっさんですよというお話をされていますし、中年の星になりたいと常日頃おっしゃっておられます。どうしてこれだけの女性の魅力をひきつけられるのか、私、まだ分析ができておりませんけれども。宇宙には解かなければならない謎がたくさんあるなということの一つではないかと思っております。
「きぼう」の日本実験モジュールが完成いたしましたのが2009年。爾来、さまざまな工夫をしながら宇宙実験のノウハウ、技術を積み重ねてまいりました。先ほどの話にもありましたように、それらの道具立てが一通りそろって、まさにこれから宇宙ステーションを使って成果を刈り取る時代になっているというふうに、私どもは考えております。
油井飛行士、大西飛行士、それから、金井宇宙飛行士は、2009年、「きぼう」の完成とともに選ばれた宇宙飛行士でございます。すなわち、彼らは宇宙ステーション「きぼう」を使って、この成果を出すために選ばれた宇宙飛行士。まさに新しい宇宙飛行士の宇宙活動の時代が始まっているというふうに考えております。今年の夏には大西飛行士、また、来年には金井飛行士のフライトが待っております。これに向けましても、いろんな準備を着々と整えているところでございます。これらのミッションにつきましても、皆さま方のご支援を引き続き賜りますようにお願いを申し上げまして、私のごあいさつとさせていただきます。本日はご来場、誠にありがとうございました。