ISS
JAXA
油井宇宙飛行士によるミッション報告
ミッション報告では、142日間のダイジェスト映像を流しながらソユーズロケットによる打上げ、宇宙ステーション補給機「こうのとり」5号機のISSロボットアームでの把持、軌道上での科学実験や日常生活、ISSから見た様々な地球の光景、そして帰還まで、油井飛行士によるミッション報告が行われました。



宇宙ステーション補給機「こうのとり」5号機の話題では、NASAからの緊急要請によって搭載することになった補給物資などを積んだ「こうのとり」を日本人で初めてISSのロボットアームを操作し掴み、ISSの危機を救ったことなど、当時の心境も交えながら報告しました。また、実験関連の活動では、創薬に繋がるタンパク質結晶生成実験の紹介や小動物飼育装置(MHU)の組み立てや機能確認、静電浮遊炉(ELF)の初期機能確認といった新しい実験装置の準備、「きぼう」ならではの超小型衛星の放出や各種試料の簡易曝露実験(ExHAM)の実施など、きぼうの利用成果を中心に報告しました。


油井飛行士のココでしか聞けない公開独占インタビュー
インタビューでは、若林理沙アナウンサーが油井宇宙飛行士に事前にホームページで募集した質問やISSでの生活、チームジャパンで挑んだこうのとりキャプチャー時の心境、宇宙でのTwitterの話などの質問をしながらミッションを紐解いていきました。


油井 亀美也(JAXA宇宙飛行士)
インタビュアー:若林 理紗(アナウンサー)
若林:
ここから担当させていただきます、若林理紗と申します。皆さん、今日はどうぞよろしくお願いいたします。さて、油井さん、20分間報告いただきましたが、まだまだお話がありますよね。
 
油井:
もう、話したいことは山ほどありますからね。
 
若林:
山ほどありますよね。なので、では、お座りいただいて、ゆっくりとお話を伺っていきたいと思います。
 
油井:
はい。
 
若林:
もう、先月日本に戻ってこられて。
 
油井:
そうですね。それからいろんな方々にお礼の挨拶をしたり、あるいはインタビューを受けたり、あるいは一部は亀の恩返しということで、地方に行っていろいろな講演なんかをさせていただいています。
 
若林:
今日も本当にたくさんの方にお越しいただいて。
 
油井:
本当に感激です。本当にありがとうございます。
 
ISSでの生活
若林:
さて、まず、先ほどミッションについてご報告いただいたんですけれども、初めてのISSでの生活というのはいかがでしたか?
 
油井:
やはり、非常に楽しみにしていましたから、到着した時というのは「やっと着いた」というふうに思いましたし、最初に宇宙ステーションから地球を見たとき、その美しさに心を奪われて、言葉が出ない感じでしたね。やっぱり、これを皆さんに伝えたいということがあって、たくさんの写真を撮ってTwitterで紹介するというふうになりました。
 
若林:
本当にたくさんのツイートをされていましたけれども。
 
油井:
あれは、仕事の時間は忙しいので、夜寝る前の1時間くらい前に、余暇の時間を使って、まず皆さんのメッセージを全部読んで、それからツイートをしていました。
 
若林:
私たち、地上だと、簡単に上げられますけど、宇宙だとどれくらいのお時間がかかるのでしょうか。
 
油井:
ちょっとインターネットが遅いので、結構時間がかかってしまうんですよね。だいたい、私は毎日1時間くらいで、一つか二つのツイートをするようにしていました。
 
若林:
でも、やっぱり1時間くらいかかっちゃう?
 
油井:
そうですね。まず、読むのでも結構時間がかかりますし、どんなことを書こうかななんて考えながら、字数に制限があるので、なるべく伝わるようにということを考えながら書いていました。
 
若林:
忙しいので写真を撮るのは大変なんじゃないですか?
 
油井:
そうですね。もう、本当に空いている時間を使って撮るというのは非常に大変だったですね。もう、平日昼間の間は分刻みのスケジュールで、トイレに行く時間もスケジュールされていないですから、計画的に進めないとトイレに行く時間もないと。もしくは、仕事が遅れていってしまいますから、そういう中でどんどん先行的に仕事を進めて、追加の仕事もやって、余暇時間に写真を撮ってツイートをするというふうにしていましたね。
 
若林:
じゃあ、トイレに行くのも、Twitter上げるのも、本当に時間との戦いみたいな感じなんですね。
 
油井:
そうですね。でも、焦ってはいけなくて。やっぱり、焦ると失敗をしてしまうので。やっぱり、朝からどんな一日になるのかなということを、もう前の日からイメージをして、それで計画的に進めていくというのが大事だったですね。
 
若林:
たぶん、今日お越しいただいている皆さまの中でも、Twitterを見ているよという方、たくさんいらっしゃると思うんですけれども。
 
油井:
どのくらいの方がTwitterを見てくれていますか。(多く手が挙がる)どうもありがとうございます。本当にたくさんの方々が。
 
若林:
すごいたくさんの皆さんが。両手をこういうふうに振って、見てるよって。
 
油井:
どうもありがとうございます。私も、名前は存じ上げなくても、Twitterの名前ですよね、書いてある名前を聞いたら、あ、この方か、と思うことがあると思うんですよね。だから、本当にそれだけたくさんの方々から、何度もメッセージをいただいて、ありがたかったです。そのおかげもあって、励まされてミッションを遂行してきましたから。
 
若林:
ご覧いただいている皆さんもすごい嬉しいでしょうね。あ、分かってくれているんだ、っていう。
 
油井:
あと、こちらね。富士山。
 
若林:
この写真、はい。
 
油井:
これは本当に運がよくて、初冠雪直後に、しかも日が昇ってくるところでちょうどISSが上を通って、さらに晴れていたという、その条件がすべて揃ったからこそ撮れた写真ですね。
 
若林:
奇跡の一枚ですね。
 
油井:
奇跡の一枚です。やっぱり、皆さん、この写真は気に入ってくださっていて、本当にありがたいですよね。私はこれは運がよかったです。
 
若林:
こちらは。
 
油井:
これは台風の写真ですね。たぶん、8月か9月くらいのときに撮ったんだと思うんですけれども。8月ですかね。これ、日本に迫っていく雲が立体的に見えるんです。一面に雲があって、やっぱりこれは非常に危険だと。何とかして、この進路の方々に、警告じゃないですけど、気を付けてくださいというメッセージを送りたいということで撮ってツイートしました。

若林:
この瞬間を撮るのっていうのは、これは何秒間くらいあるんですか?
 
油井:
本当にすぐ通り過ぎてしまうので、このベストなところっていうのは前後数十秒ぐらいずつですかね。まず、目の上をちょうど通るっていうのも奇跡ですし、なかなか珍しいことですし。秒速約8kmで進んでいますから、あっという間に通り過ぎてしまいますね。
 
若林:
もともとお写真を撮られるのはお好きだったんですか?
 
油井:
いや、宇宙飛行士になる前は全然興味がなくて。ただ、宇宙に行ったときに何かしら役に立つような趣味はないかなというふうに思いまして。アサインされて以降にカメラを自分で買って勉強してみました。
 
若林:
全てはTwitterと写真のために。
 
油井:
そうですね。ちょっと高めのカメラも買って。なかなか高い投資でしたけど。それに見合ったような写真が撮れていればいいなと思いますけど。皆さま方は写真に興味ある方が多いですから。私、写真上達しましたかね?
 
――(拍手)
 
油井:
どうもありがとうございます(笑)。
 
若林:
素晴らしいです。Twitterをずっとやられていて、写真も勉強されて、皆さんに一番伝えたかったメッセージというのは何なんですか?
 
油井:
やはり、地球の美しさ、星の美しさもあるんですけれども、私が最初に感じたのは、最初に地球を見たときに、地球の上にある大気の薄さですよね。これに非常に驚きました。地上にいるときは、空気はもう無限にあると思っていましたけども、実は宇宙から見るとその青い層が非常に薄く見えて。そのさらに下に雲が見えて、その下にしか人間が生活できるだけの空気がないと思うと、地球は大切にしないと、本当に壊れやすいものなんだなというのが実感できたので、そういうことを伝えたかったですよね。
 
若林:
ここにいると分からないですからね。
 
油井:
そうですね。それは、本当に宇宙に行ったからこそ、私も感じたことですね。
 
ソユーズの乗り心地について
若林:
今回のイベントに向けて、ホームページで質問をいろいろ募集させていただきまして、少しずつご紹介していこうと思っているんですけれども、先ほどの映像にありました、打ち上げのときに関して一つ質問がありまして、アオイオ(ペンネーム)さんからいただきました。
 

油井:
アオイオ(ペンネーム)さんですね(笑)
 
若林:
「ソユーズの乗り心地はどうですか。激しい揺れがあると思いますが、酔ったりはしなかったですか」ということです。
 
油井:
非常にいい質問ですね。私も初めてなので、ドキドキしながら、どんな感じなんだろうと思いながら打ち上がったのですけれども、非常にスムーズで快適でしたね。当然、重力加速度もかかって、4Gから5Gくらいの強いGがかかるんですけれども、胸から押されるような感じの方向ですし。振動や音もあるのですけれども、以前、私は自衛隊で戦闘機に乗っていまして、F-15なんかですと9Gまでかかりますし、そのGがかかる方向も、頭から血が抜ける方向にかかるので非常に大変なのですが、それに比べると非常にスムーズで快適な打ち上げ、乗り心地でしたね。
 
自衛隊から宇宙飛行士へ
若林:
いただいた質問の中で、「自衛隊の経験がどうやって生きましたか」というご質問があったのですけれども、そういったところはありますか?
 
油井:
はい。それもありますし、私はテストパイロットといって、新しい装備品を開発して、その飛行機をテストしたりする仕事をしていましたので、実はその仕事の仕方が宇宙飛行士と非常に似ていましたね。地上の方々と協力しながら、新しい物が地上から送られてくる、それを手順どおりに機能を確認したりしながら、不具合があれば地上と連携をとって、さらに直していく、いい物を作っていくという過程が非常にテストパイロットと宇宙飛行士は似ていましたので、私自身は本当にやりやすかったですね。
 
若林:
そうなると、繋がっているなと思うんですけれども。でも、自衛隊にいて、なぜ宇宙飛行士になろうと思ったのでしょうか。
 
油井:
そもそも私は、川上村という小さい長野県の村で生まれて、星が非常にきれいな村だったので、小学校の頃から星を見るのが本当に好きでした。天体望遠鏡を買ってもらって、月や土星を見ている時に、こういう所に行ってみたいなとか、宇宙の謎を解明したいなということで、天文学者か宇宙飛行士になりたいというのがありました。ただ、自衛隊に進むことになって、当時は自衛隊から宇宙飛行士になるという仕組みがなかったので、ちょっと夢を諦めかけていたのですけれども、アメリカでパイロットになるための訓練を受けているときに、『ライトスタッフ』という映画を見まして。それは、アメリカの宇宙開発初期に、テストパイロットが宇宙飛行士に選ばれて宇宙に行くという話でしたから、もしかしたら日本もそうなるんじゃないかなと思って。25歳くらいの頃から、そんなことを考えながら日々生活していました。
 
若林:
その時はもうご結婚はされていて?
 
油井:
はい。結婚していましたね。
 
若林:
そのとき、ご家族は何とおっしゃったんですか?
 
油井:
実は、私が妻に、そのために「テストパイロットになりたい」と言ったときに、「なんでそんな危険なことがやりたいの?」というふうに言われたんですけど、そこで私は、「実は宇宙飛行士になりたくて、そういうことがあって、私はテストパイロットになりたいんだ」という話をしたら、妻がその話を覚えていてくれて。私は自衛隊で忙しくて、その情報が見つけられなかったときに、妻がその宇宙飛行士募集の話を見つけてくれて。
 
若林:
あ、奥さまが。
 
油井:
はい。で、私の背中を押してくれて。願書を印刷してくれたり、土曜日、日曜日にやっている病院を探してくれて、「受けてみなさい」というふうに言ってくれて。
 
若林:
じゃあ、もうファミリーサポートが全面的にあったんですね。
 
油井:
本当に感謝していますね。私も、妻がそうやって言ってくれないと、私もここにこうしていないので。また、自衛隊での別の夢もありましたから、たぶん自衛隊で元気に仕事をしていたんだと思うんですけれども。本当に、ここに私がいられるのは、妻のそのサポートも大きいなというふうには思いますけどね。
 
若林:
素敵ですね。
 
油井:
でも、実際に妻は、勧めたときに、受かると思ってなかったみたいですよ(笑)。だって、受かるなんて思わないじゃないですか。やっぱりね、1000人近い人が応募していたので。
 
若林:
倍率が何百倍ですもんね。
 
油井:
そうですよ。家では普通のお父さんだし、部屋ではだらしない格好もしているわけですよ(笑)。
 
若林:
まあ、おうちでもこの格好をされているわけないですもんね(笑)。
 
油井:
これじゃないですからね。本当に普通のおじさんなので、やっぱり受からないと思っていたみたいですけど。
 
若林:
でもねえ、やっぱり。お子様もいらっしゃって。
 
油井:
そうですね、はい。
 
若林:
ご家族の皆さん、宇宙から帰ってきた時には何とおっしゃっていたのですか?
 
油井:
帰ってきたときは、案外あっさりしていましたね。「おかえり」みたいな感じで、「あ、帰ってきた、お父さん」みたいなね(笑)。
 
若林:
すごい、心の強いファミリーですね。
 
油井:
そうですね。自衛隊の頃から、お父さんがいないのが普通だったので、お父さん、たまにいるなって、めずらしいな、くらいの感じじゃないかと思いますけど。
 
若林:
久しぶりに帰ってきた、みたいな感じで。そうなんですね。
 
油井:
はい。
 
宇宙での衣食住
若林:
ちょっと話題を変えまして。
 
油井:
そうですね。こんな余談ばっかり話していると、宇宙の話にならないので。すいません。
 
若林:
そうなんです。ちょっと宇宙の話にもどしまして。ご家族ももちろん宇宙につながっているんですけれども、いまここに物を用意しているんですけれども。
 
油井:
そうですね。飲み物の話ですね。私、実は地球上でコーヒーが大好きで、もう毎日のように飲んでいたんですよ。で、宇宙に行って、こういうパッケージにコーヒーが入っているんですけど、ここに水を入れて飲んでみたと。これ、実はね、おしっこから再生されている水ですけど。まあ、それは置いておいて。これ、飲んだ時に、なんかコーヒーがまずいなと思ったんですよね。なんでまずいのだろうって、分からなくて、理由は分からないのですけど、1か月くらい飲まなかったんですよ。そういうときに、ある私の同僚のチェル飛行士が、宇宙用に開発されたこのカップ、この実験をやっていまして、これでコーヒーを飲んでいたんです。
 
若林:
すごい変わった形ですよね。
 
油井:
そうなんですよ。これは、宇宙では、こういう形に入れておかないと、水が飛び散ってしまって危険だと思うかもしれませんが。このパッケージですね、ストローがあって、止めておけて、水が出ないようになっていると。で、飲むときはこれを開けてチューチュー吸うというのが。
 
若林:
もう、ストローで吸うっていう形ですね。
 
油井:
宇宙の典型的なパターンなんですけど、これは、実はこの中にコーヒーを入れると、表面張力でこの中にとどまっているんですよ。下のほうにたまるんですよね。コーヒーというのは、先端がとがっていまして、細くなっていまして、ここを毛細管現象でコーヒーが上がってくるんです。これ、ちょっと入れてみましょうか。
 
若林:
じゃあ、ぜひ。
 
油井:
実は、地上だと重力があるので、全然上まで上ってこないんですけど。こうやってついだコーヒーが、重力がないので、毛細管現象でこの部分をツツツツッと上がってくるわけです。ここに口をつけるだけでチュルチュル飲めるという、すばらしいカップなんですよ。これをチェル飛行士が実験をやっているときに、「おい、亀美也、ちょっと来てみろよ。このコーヒー、むちゃくちゃうまいから」って言われて、飲んでみたらやっぱりおいしかったんですよね。なぜかというと、これ、香りがするからなんですよ。匂いがすると、コーヒーがおいしい。だから、私はコーヒーが好きなんですけど、味が好きなわけじゃなくて、においが好きだったというのがわかりました。これ、非常に便利なんですけど、実は私自身、宇宙に行って、宇宙にどんどん適応したと思っていましたけど、重力に縛られているなって気がついた瞬間は、これ、宇宙ではこうやって飲めるんですけど、なぜか宇宙に行っても、こうやって飲んじゃうんですよね。なんか、傾けて飲んじゃう。
 
若林:
もう、癖ですよね。
 
油井:
これは、地上にいるときの癖で、チェル飛行士も同じようにやっていたので、お互いに笑ったんですけど。おまえ、まだ重力に慣れてないぞって(笑)。
 
若林:
やる必要ないよ、みたいな(笑)。
 
油井:
そんな感じで(笑)。本当にね。でも、これは新しい気づきで、これ以降、私、コーヒーをガンガン飲みましたから。
 
若林:
やっぱり、人間って香りにすごい左右されるんですね。
 
油井:
そうですね。本当に香りっていうのは重要で。やっぱり、質問をたくさん受けますけど、「宇宙ステーションのにおいってどうなんですか」とか、「宇宙のにおいって何なんですか」って、よく聞かれるんですけど、それはやっぱり非常にいい質問で。意外に、宇宙ステーションね、シャワーもないし、みんな臭っているんじゃないかと思うかもしれませんけど、そこまでにおわないんですよ。本当に無臭な感じ、空気が非常にきれいです。
 
若林:
それは、皆さん清潔だからとかではなくて?
 
油井:
いや、私もあんまり清潔だった記憶はないんですけど、ズボンも4か月ずっと履き続けましたし。でも、臭わないと。それはなぜかというと、空気をいつも循環させていて、においのフィルターなんかがあるんですよね。うちのコマンダーであるスコット・ケリーさんも言っていたのは、「理論的に考えろ。くさいものは隠したくなるけど隠すんじゃない。換気のいい所に置いておくんだ。そうすると、空気が流れてフィルターににおいが吸い取られるから」と言っていて。本当にそのとおりでしたね。
 
若林:
その香りでいうと、宇宙の香りっていうのは実際にあるんですか?
 
油井:
宇宙の香り自体は、宇宙に空気がないのでないんですけれども。実は、似たものが、これがもしかしたら宇宙の香りかなっていうものが紹介できて。それは、例えば「こうのとり」がドッキングしたときですよね。「こうのとり」の中には空気が入っています。種子島の空気が入っていますよね。で、ISSのほうにも空気が入っているんですが、ドッキングさせたその隙間っていうのは、最初は空気が入ってないわけですよ。そこに宇宙ステーション側から空気を入れて、それからハッチを開けるわけですね。だから、ISSのほうは空気のにおいが無かった。そのあと、その隙間のところのにおいを嗅ぐと、実は、金属が焦げたような、焼けたような匂いがしました。というのは、それまで、ドッキングするまでの間、宇宙空間にあって温度差がすごい激しいですから、+100度になったり、-100度以下になったりしますので、そこで金属が焼けたりするんでしょう、熱くなったりするんでしょう。そこに空気を入れてかぐと、金属のような匂いがするんですよ。だから、もしかしたらそれが宇宙のにおいかもしれません。すいません、うまく説明できなくて。分かりましたかね。
 
若林:
うんうんと頷いていただきました。
 
油井:
分かっていただけるとありがたいんですが、すいません。
 
若林:
本当に行った方にしかわからない香りですもんね。
 
油井:
そうですね。
 
チームジャパンでミッション達成へ
若林:
今、「こうのとり」のお話が出ましたけれども、やはり「こうのとり」5号機での、ちょっと最初のお話でもおっしゃっていましたけれども。
 
油井:
物不足でね、大変でした。
 
若林:
物不足でどういう?
 

油井:
一番大きなところでいうと、水を再生して使っているというふうに言いましたけれども、尿であるとか汗をフィルターできれいにしてそれを飲んでいるんですけれども、そのフィルターがだんだん汚くなってきていて。水がどんどん汚れている状況、フィルターを替えなければいけないんですけれども、フィルターの予備がないという状況になっていたので、それをNASAから緊急輸送の要請を受けて、これをとにかく運んでくれと言われて、もう打ち上げ直前に、NASAが直接運んで、それを打ち上げていましたね。
 
若林:
そういうことって、今まであったんですか?
 
油井:
これは、そういうことはあまりなくて。連続で失敗することがないので。当然、急に積むことはできるんですけれども、NASAからこんな形で緊急で要請をされて、どうしても上げてくれと、日本が頼まれて上げたというのは今回がたぶん初めてじゃないかなと思いますけど。そういった意味でも、本当にNASAからも、世界中からも本当に感謝されました。身近なところでいうと、体を洗うための石鹸であるとか、あるいはコーヒーも少なくなってきましたし。綿棒もなくて耳が掃除できないとかいう状況だったんです。他のクルーも同じような状況ですから、君はこれを絶対につかんでくれ、失敗は許されんぞ、と言われて、プレッシャーをかけられて臨んだんですけれどもね。
 
若林:
それは相当な、世界中からの注目を受けての、すごいプレッシャーですよね。
 
油井:
そうですよね。実際に万が一これが失敗してしまうと、もうISSに人がこれ以上滞在できなくて、人を帰さないといけないというような状況にもなりかねない、そういう追い詰められた状況でのミッションでした。
 
若林:
緊張しますよね。
 
油井:
そうですね。緊張しましたね。正直。私、あんまり緊張することはないんですけど、かなり緊張しました。宇宙に来るとき、ソユーズで打ち上がるときも平常の脈拍だったと、お医者さんに言われたんですけど、HTVをキャプチャーするときは少しドキドキしているのを感じましたね。
 
若林:
その油井さんが少しドキドキしていたという瞬間の映像を、きょう初公開でご覧いただきます。
 
油井:
いや、どんな顔しているんだろう。
 
若林:
皆さん、表情にもご注目ください。これはキューポラでの映像ですね。これはいま「こうのとり」が近づいてきている。
 
油井:
はい。近づいてきている。非常に綺麗で、「金色の宝箱みたい」なんて、私言いましたけど。あと、スコットさんも、非常に重要なミッションだって、不安そうにうしろで見ていましたけどね。
 
若林:見守ってくださっているんですね。
油井:
もう、本当に、これ、終わった瞬間のところで、本当に嬉しくて。チェルとこうやって、嬉しかったです。本当にホッとしました。でも、通信役が若田さんだったので、やっぱり若田さんの声を聞くと、ちょっと私もホッとできる部分もあって。そういった意味でも助けられましたし、あとは、本当に「こうのとり」もISSも秒速約8kmというすごいスピードで動いているんですけれども、筑波の管制チームがそれをしっかりと相対速度をゼロにして、本当は少しくらい動いていてもいいんですけれども、完全に止めてくれたので、私もキャプチャーがしやすいということで。本当に主要な部分、日本人が協力をしてこのミッションを成し遂げたなという、本当に実感がある、そして、それによって日本に対する信頼がさらに増したというのが実感できるミッションでした。
 
若林:
オールジャパン、チームジャパンだったんですね。
油井:
そうですね。本当に。みんなから感謝されて、フルーツも届いて。本当にみんなに、ロシアの飛行士であるとか、アメリカの飛行士と分けて、みんなでおいしくいただいたので、本当に私のミッションのハイライトであって。だから、ほんとうに「こうのとり君」と言っていたんですけど、非常に愛着がわいて。「こうのとり」は機械なんですけど、やっぱりそれに携わった方々が見えるような気がして、本当に親近感がわいて、いつもこうのとり君と写真を撮って、いつも話しかけていました。

若林:
こうやってハグしているのがすごい印象的で。
 
油井:
会見のときに、あそこにあるこうのとり君にハグしていたんですけどね。
 
若林:
この、チームジャパンというのが、私たち日本人としても、地上からニュースとか映像とかを見ていても、やっぱり嬉しかったですよね。そういう緊急事態、世界全体の、世界でやっているISSの緊急事態にチームジャパンで対応できたんだなっていうのが。
 
油井:
やっぱり、この実績があったからこそですかね、実は日本も2024年までのISSの延長を政府で決めていただいたんですけれども、その合意内容というのが、やっぱり日本の実力を認めていて、対等な立場で、じゃあどういうところでもっと協力ができるんだろうというような合意内容になっていて。日本とアメリカで、アジアの国々にもその利用を広げていこうじゃないかというような、日本がそこをリードしていこうというような内容になっていたので、私もまさに宇宙でそういうことがしたかったので、本当にうれしいニュースでしたね。帰還後、すぐにそのニュースが舞い込んできたので。本当にうれしかったです。
 
油井宇宙飛行士の気持ちの切り替え方
若林:
先ほど、「すごい緊張の中で」とおっしゃっていたんですけれども、もう一つ質問にお答えいただければなと思うんですけれども。「大変な緊張の中」というご質問があったんですね。一つご紹介します。ワタナベカオリさんからです。「こういった緊張の中、また壁にぶち当たったりすることもあると思うのですが、どのように気持ちを切り替えて乗り越えていっているんですか」というご質問がありました。
 
油井:
やっぱり、本当に厳しい訓練しかないかなと思いますよね。本当に今やらなければいけないことっていうのを、しっかり一つひとつやっていくと、そういう状況になったときも、自分に自信が持てて、「ここまでやったんだから俺は大丈夫だ」というふうに、自分に言い聞かせて、その重要なミッションをやり遂げることができますので。やっぱりその強い心っていうのは、一朝一夕で成るわけではなくて、それまでの長い積み重ねによって、生まれるのかなという気はします。
 
若林:
「もともと自分はメンタルが強いほうだな」とかっていうのは、ないですか?
 
油井:
いやいや、そんなことはないですよ。たぶん、私の小さい頃を知っている人がいたら、本当にびっくりすると思いますよ。給食は2~3時間かけながら食べるし、運動も苦手で。
 
若林:
それは好き嫌いが多かったからですか?
 
油井:
そうなんですよ。好き嫌いが多くてね。で、おっとりしていて、本当に遅い。本当に亀のような子どもでしたけど。本当に、そういった意味でも。でも、本当に私自身、亀って名づけてくれた両親にも感謝していますし、そういうところでね、家のお手伝いなんかもしながら、しっかりと育ててもらったので。そういったところから一歩一歩やる、成果はすぐに出ないんだということを身をもって教えてもらったので、やっぱりうまくいったのかななんて思いますけど。
 
若林:
油井さんのお話を聞いていると、子育ての仕方とかも考えさせられますね。
 
油井:
そうですね。私も子育てのいい例ができればいいんですけど。私はちゃんと育てていただいたんですけど、私は忙しすぎて、実は子どもの面倒を見ていなくて。もう、本当に。でもね、無事に育っているみたいですから。いまこの会場にいると思いますけど。
 
若林:
今日もいらっしゃっているんですか。
 
油井:
どこかにいると思いますけど。お父さん、あんまりお父さんらしいことしてないけど、がんばってやってくれ(笑)。という感じで。
 
若林:
いやあ、こんなお父さんいたら、本当にかっこいいなと思いますね。
「きぼう」の中で、実験棟の中でさまざまな実験を。
 
油井:
実験装置をね。
 
若林:
それをもう少し。
 
「きぼう」での実験
油井:
はい。「きぼう」は新しいステージに来ていて、私と大西さんと金井さんは、ISSを使う、そういう時代に入って。もう建設は終わっていましたから、その利用をどんどん拡大していくことを期待されている宇宙飛行士なんですけれども。新しい実験装置の設置をして。最初のビデオにもありましたとおり、小動物を飼うためのおうち、マウスのおうちを作ってあげたりとか。あとは、小型衛星の放出なんかもしましたし、新薬のできるようなタンパク質の結晶を作る実験、こんなことをしていまして。本当にこれは成果が期待されているんですけど、私が、ここがやっぱりすごいところだなと思うのは、いろんなことができると。で、それがやっぱり、いろんな方が興味を持てるような、そして、いろんな国が比較的安価に参加できるような実験があるので。例えば、薬を作るようなタンパク質の結晶の実験であるとか、小型衛星を放出するような実験というのは、本当に数百万円レベルまで価格が落ちてきていて。本当にいろんな国々の方々が、この「きぼう」を使いたいと言ってきてくれるんですよね。私は元自衛隊ですから、そういうことが非常に重要だと思っていて。やっぱり、日本がこの科学技術を利用して、世界をリードしていって、ほかの国々との関係もさらに改善していくというんですかね、だから、アジアに利用が広まれば、アジアが平和になるんじゃないかなとか思いながら、こういう実験装置を組み立てたり、その実験をしたりしていました。
 
若林:
ただの実験の結果のためだけのものじゃないんですね。
 
油井:
そうですね。結果は当然重要で、私も緊張しながら、本当に大事に大事に実験はやっていたんですけれども、それ以外にも、実際に協力してやっている研究者の方々、それぞれの国の方々っていうのを思い浮かべながら、そことの関係がうまくいくように、日本との関係がうまくいくようにと願いながら、実験はやっていましたね。

若林:
まさに国境のない宇宙だからこそのことですね。
 
油井:
そうですね。本当にISSでは、今でもアメリカとロシアなんかね、政治的なところではいろんな問題なんかもありますけど、ISSでは宇宙飛行士、本当に仲良く協力し合いながら仕事をしているわけで。そういうことが、そういう新しい文化が、ISSで培った文化が地上に広がるといいなと、私は思っています。そこで日本人はロシア語も英語も話せますから、橋渡し的な役割をして、やはりその重要な役割を果たせるんじゃないかなというふうには思っています。
 
若林:
油井さんも、英語もロシア語も勉強されて。
 
油井:
そうですね。一生懸命勉強して。言葉だけじゃなくて、文化や、本当に子どもたちとふれ合ったりしながら、それぞれの国のことを本当に知って、好きになって、そして橋渡しをやるというようなことを心がけていましたけどね。
 
若林:
その実験の詳しい内容については、またこのあと第3部で詳しくお話ししたいと思います。
 
油井:
そうですね。ちょっと難しいかもしれないですけど、私が宇宙に行っているのは、実験するために行っているわけで。Twitterが目立ちますけど、実は実験のために行っていますので、そこをぜひ聞いていただきたいなというふうに思います。
 
今後の目標や夢
若林:
では、このコーナーの最後として、今後の目標でしたりとか、夢と、そういったところをお願いいたします。
 
油井:
やっぱり、よく言うんですけど、「今すぐにでも宇宙に行きたい」というふうに言いまして。私自身、すぐまた宇宙に行きたいし、さらに遠くにも行きたいんですけれども、そういう大きな目標は一つ持っておいて。やっぱり、亀みたいに身近ですぐにやらなければいけないこと、今やらなければいけないことをしっかりやることが夢につながっていきますから、とりあえずは、やっぱり、間もなく大西飛行士が、予定で6月下旬ですかね、宇宙に行きますので、そのミッションのサポートをやって。それ以降はさらに金井飛行士が来年宇宙に行きますから、そのサポートもしっかりやり、そして、この「こうのとり」君ね、毎年のように上がっていきますけれども、実は毎回ちょっとずつ機能が向上しているんですよ。ですから、私は5号機の、5代目の「こうのとり」君の知見をさらに生かして、さらに素晴らしい「こうのとり」君を生み出していくということも頑張っていきたいと思っています。

若林:
これから、油井さんの行動といいますか、これから何をされるのかというのが、目を離す隙がないというくらい、皆さん、ぜひ注目してください。
 
油井:
ぜひ、これからも応援をいただいて、私もどんどんTwitterで、あるいはこういう講演会で情報を発信していきますので。4月からは日本で筑波を拠点にがんばりますので、是非、いろんなメッセージを送っていただきたいですし、筑波にも遊びに来ていただきたいなと思います。
 
若林:
それでは、引き続き、このあと休憩が入りまして、そのあと第3部で実験についてより詳しくお話しいただきます。
 
油井:
そうですね。ここが私の仕事のメインのところですからね(笑)。
 
若林:
Twitterではないと(笑)。でも、Twitterのおかげで、油井さんの行動でしたりとか、お人柄っていうのも、より分かりやすく身近に感じることができるので。
 
油井:
そうですね。私も皆さんの考えが聞けて、本当によかったので、こういう双方向のやりとりっていうのは大事ですよね。
 
若林:
これからも楽しみにしております。
 
油井:
はい。どうも本当にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします。
 
若林:
どうもありがとうございました。
 
油井:
はい、どうもありがとうございました。またよろしくお願いいたします。
 



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油井宇宙飛行士ISS長期滞在ミッション報告会事務局
MAIL: mission-report2016@stage.ac