開催結果報告

第2部 世界の視点から「こうのとり」をこう見る!

第2部では、海外の視点(NASA ISSFDおよびオービタル社副社長)から、こうのとりのコアな技術に対する国際的な評価を説明し、こうのとりの技術の高さについて講演を行いました。

Carl Walz 様(Orbital Sciences Corporation Vice president)

シグナス宇宙船の運用とHTVとのつながり

Carl Walz 様(Orbital Sciences Corporation Vice president)

HTVの技術を受け継ぐ我々のシグナス宇宙船、これについてお話させて頂く機会を与えてくれたJAXAに感謝したいと思います。
先ず我々、オービタルサイエンシズ社の自己紹介をさせて頂きます。我々は小型から中型の衛星を、アメリカの企業・政府に向け製造しています。

さてシグナス宇宙船ですが、サービスモジュールそして与圧・カーゴモジュールという、大きな二つのモジュールからできています。サービスモジュールは、推進力・ナビゲーション・ガイダンスの能力があります。打ち上げ時は、アンタレスロケットによって打ち上げることができます。

また、与圧カーゴモジュールは、我々のパートナーであるタレス・アレ-ニア・スペース社のイタリア工場でつくられており、2000キロの荷物を運ぶことができます。現在はより長いバージョンを開発しており、これは2700キロ運ぶことができます。

シグナス宇宙船とHTVのつながりは、近傍通信システムです。これは元々、三菱電機がJAXAにむけて開発したものです。このPLSシステムは、シグナスからISSに先ず交信を行い、最終的に地上と交信することで地上からコマンドを行えるようにするシステムです。ランデブ、離脱の時に使うシステムです。

シグナスと飛行士との交信は、日本の「きぼう」に付いているシステムで行い、JAXAが搭乗員用に開発したHCPというコマンドパネルによってコマンドを送ります。この技術は非常に重要でありますが、それだけではなく、フライトコントローラーがHTVをコントロールしますし、つくばからも飛行に対してサポートがあり、どれもが非常に重要であると言えます。

トレーニングですが、シミュレーションなども行われます。ダラスのシグナスフライトコントロールチーム、ヒューストンのNASA、つくばのJAXAの3局で合同練習をすることもたびたびあります。 三菱電気の方で、このPLS、近傍通信リンクシステムを開発しているわけですが、それに加えて、地上用のテスト機器に関しても提供して頂いています。この機器がきちんとオペレーションしているかというテストが必要なわけです。

またJAXAからは、仕事をよりスムーズに進められるように、早い段階で地上のサポート機器を対応して頂いています。NASA、JAXA、そしてわれわれオービタル社は、様々な経験を提供することで協力し合っています。HTVのフライトコントローラーやフライトディレクタの経験を提供してもらっている訳です。

HTVとの協力によって、共通のアビオニクスシステムに対して非常に信頼性を高めることが出来ていると考えています。(これは)安全性を向上させるわけです。こうした協力から、さらにISSや有人飛行の国際協力が進んで行くことになります。
シグナスに搭載された日本製のコンポーネントはこれだけではありません。
ジーエスユアサのリチウムイオンバッテリー、IHIのデルタVエンジンなど、日本のコンポーネントを使わせて頂けることを、非常に喜んでおります。
ランデブ・ドッキング、また荷物を運んでから(ISSから)離脱するとき、JAXAと協力して行っています。さらに再突入の際にも、常にNASAとHTVのチームと協力して行きます。
ISSにおけるこの日本とアメリカのパートナーシップが、シグナス補給船にも波及しているということ。近傍通信システムが、シグナスにとって大変重要であること。

またシグナスのフライトコントロールは、NASAとHTVの運用管制チームから学び、共同訓練しながら協力して行きます。宇宙ステーションに対しての実証飛行を、春、遅い時期には行えると思っています。

Dana Weigel 様(NASA ISS Flight director)

NASAから見たHTVミッション

Dana Weigel 様(NASA ISS Flight director)

最初のHTVミッションにおいて、NASAのリードフライトディレクタでした。今日は、HTVミッションが、NASA、そしてISSにどんな意味を持つのかを話して行きたいと思います。先ずはISSの概要、そしてHTVの運搬能力やHTVの最初のミッションという重要性、さらにJAXAとNASAの共同運用が成功したということについて言及して行きます。

ISSは、軌道上で組み立てられました。1998年から2011年までの間に様々な船外活動を行い、2000年から宇宙飛行士が継続的にこのISSに滞在しています。部品は16もの国から集められ、その為の打ち上げは100回以上行われました。組み立て・補給の為にアメリカ・ロシア・日本・ヨーロッパからも打ち上げがありました。

現在ISSには常時6人の宇宙飛行士が滞在しています。それぞれが6ヶ月滞在し、ロシアのソユーズを使って3人ずつ交代するローテーションを組んでいます。

宇宙ステーションの主な目的は、世界的な実験を行うことです。有人探査の為のもの、あるいは基礎研究、科学研究は、重量0の環境が最も適しているのです。また、高度な技術の開発は、宇宙船にとって未来を切り開くものでありますし、地上の様々な産業に影響を与えます。

再補給についてですが、物資の補給やゴミの管理はISSの成功にとって非常に大切なものになってきます。生命維持の為の消耗品、クルーの食事やスペアのシステム部品、実証実験のための器具など、継続的な補給が不可欠です。生活必需品が不足してしまうと、クルーを地球に帰還させなければならないからです。スペースシャトルが退役したのち、HTVはISSの維持に不可欠な存在になったわけです。

特にシャトルの退役後、船外物資を運べるのはHTVだけになりました。船外物資は、ISSの外部を修理するのに必要なもの、あまりにも大きくて船内に入れられないものです。

HTVは、ISSのロボットアームでキャプチャされ、アメリカ側の区画に繋留されました。ロシアやヨーロッパの補給船等は、ロシア側に繋留されます。つまり、新たなランデブ・ドッキングの技術は、NASAとJAXAの協力関係が必要だったのです。フライト技術やランデブの運用、キャプチャやリリースなど、色々なオペレーションで協力しました。HTVは、このような技術・オペレーションの基礎となりました。現在、スペースXのドラゴンや、オービタルのシグナスのミッションの基礎となっている訳です。

少し話題を変えて運用について話したいと思います。また、JAXAとNASAの協力関係がミッションにとって如何に重要だったか、述べたいと思います。

フライトコントロールチームというのは、ミッションを設計と実行、そして軌道上で異常が起きた場合の対応の責任を負っています。お聞きいただいたとおり、HTVとISSのランデブというのは非常に複雑なものなので、とてもチームワークが大切です。山中さんがおっしゃっていた通り何年も訓練しました。少なくとも45回は、シミュレータによる訓練をしました。ともに高速で動くISSとビークルを繋げるということが、如何に難しいかということがわかると思います。
リアルタイムの構造ですが、NASAで、フライトディレクタ、フライトコントロール、そしてエンジニアがいて、コミュニケーションを取りながら宇宙ステーションと交信しています。一方JAXAでは、こちらにもHTVのフライトディレクタ、フライトコントロール、エンジニアがいて、コミュニケーションを取りながらHTVと交信しています。この2つのチームは、リアルタイムで素早い決定をしなければなりません。接近させるというリスクを負っているからです。

HTV1で得た経験についてお話します。HTVのキャプチャの日というのは、JAXAとNASAのフライトコントロールチームがHTVミッションの中止を防いだ誇るべき1日だったと言えます。HTVがISSの下300mに近づいたとき、HTVが加熱し始めてしまったのです。HTVは、位置関係を把握する為に、前後に動くという独特な(技術)実証実験をしなければならず、(また機体には)スラスターが沢山ついていました。もしも計画通りにミッションを進めていたならば、HTVの加熱によって、ミッションを中止せざるを得なくなり、ランデブには失敗していたと思います。

急な選択を迫られる中、NASAとJAXAのチームは計画を変更し、2つのことを実行しました。1つは、スラスターを交互に使うことでクールダウンさせること。もう1つは、デモの時間を短縮させることです。これらは成功しました。実証実験も済まし、キャプチャにも成功することができました。

この二つのコントロールチームの間の信頼、HTVの経験・知識、また数年にわたる訓練の成果が出たのだと思います。まさに成功の鍵でした。
クルーは勿論、重要な役割を果たしました。時間を短縮するにあたって、急速に対応してくれました。そして数日後、クルー達はHTVの中に入って祝福してくれた訳です。そしてHTVの壁面にメッセージを残しました。「素晴らしいビークルをつくってくれてありがとう」と。HTVは、NASA、またISSにとっても重要なものです。そして、有人宇宙飛行の基礎にとっても非常に重要なものになると思います。