第2部 科学と技術が切り開く未来、宇宙の技術から見えること
星出彰彦宇宙飛行士
大野義一朗氏(外科医、第39次日本南極地域観測隊の越冬隊員)
片岡 史憲氏(トヨタ自動車 製品企画室主査)
司会:有働由美子アナウンサー(NHK)
大野義一朗氏(外科医、第39次日本南極地域観測隊の越冬隊員)
片岡 史憲氏(トヨタ自動車 製品企画室主査)
司会:有働由美子アナウンサー(NHK)
星出彰彦宇宙飛行士
大野義一朗氏(外科医、第39次日本南極地域観測隊の越冬隊員)
片岡 史憲氏(トヨタ自動車 製品企画室主査)
第2部では、「科学技術が切り開く未来、宇宙の技術から見えること」をテーマに、星出宇宙飛行士のほか、宇宙開発とは異なる分野で活躍するゲストとして、第39次日本南極地域観測隊の越冬隊員であり、現在は東葛病院の副院長を務める大野義一朗氏と、トヨタ自動車株式会社の製品企画室主査を務める片岡史憲氏を招き、NHKの有働由美子アナウンサー進行の下で、それぞれの立場から意見を交換を行いました。
■ “夢”なぜその道を目指したのか
有働 星出さん、選んだ道がなぜ宇宙飛行士だったのかから教えてください。
星出 小さいときに父の仕事の関係でアメリカに住んでいて、ケネディ宇宙センターに連れて行ってもらいました。そこで本物のロケットを見たのが一つ。世代的に『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』世代です。それに影響を受けて、「宇宙へ行ってみたいな。カッコいいな」と思っていました。夢と現実の両方がたまたま同じタイミングでマッチしていました。高校ぐらいになったときに最初の3人の宇宙飛行士が選ばれて、それからしばらくして、「宇宙飛行士という職業がある。じゃあ、なってみようかな」という感じでした。
有働 「なってみようかな」と思ってからが難しくないですか。
星出 実は、私の場合には3回目の挑戦で宇宙飛行士に合格できたのです。1回目は大学在学中で、宇宙飛行士の受験資格は「実務経験3年以上」です。(受験させてほしいと)直談判しに行ったら、その場で、「ごめんね」と言われました。でも、そこで諦めずに、当時の宇宙開発事業団に入社してエンジニアとして働きながら次のチャンスを待っていました。その次のチャンスで受けて、最終試験まではなんとか残ったのですが、やはりその時もだめでした。3度目の正直です。
有働 自分で直談判に行くくらいの人じゃないと、それくらいの情熱がないとだめですか。
星出 父に「やりたいのだったら、それくらいの誠意は見せなきゃいかんだろう」と言われたということはあります。(審査側は)情熱は確かに見ていますね。同期生にあたるアメリカ人の中で5回受けた人がいます。1回目で受かっている人のほうが少ないです。NASAは「本当にやりたいのかどうか」も見ていると聞いています。
有働 大野先生は外科医で、1997年から99年まで第39次日本南極地域観測隊に行かれたということで、なぜ南極へ行きたいと思ったのですか。
大野 今まで南極に行った医者は日本で100人くらいです。南極へは必ず医者がついて行きます。他の人たちは南極で研究しますが、医者は「向こうで一生懸命働きます」と言うと、「そんなことはしないでくれ」と言われて、誰も怪我しない方がよい訳です。医者にとって、南極へ行くのはあまり意味がない。そういった意味では、誰よりも純粋に南極が好きな人間が行きます。実際に本当に素晴らしいところで、自然も多くて、自然の中でさまざまな人間模様が見えて、やはり行って良かったなと、それが理由だったんだなということが分かる訳です。
有働 片岡さんはアーティストみたいな風貌ですが、トヨタ自動車でどんなお仕事をされているのかと、なぜ自動車を選ばれたのですか。
片岡 この風貌がたぶんトヨタ自動車のイメージを完全に崩してしまったのではないかと思いまして、申し訳ございません。私も実は小さい頃に宇宙飛行士になりたかったのです。宇宙飛行士というと、やはりアポロ。4歳になったくらいのときの記憶が残っています。子どもの頃にいろいろな絵を描いていますが、僕はロケットとか、アポロ宇宙船とか、カッコいい乗り物でした。それに乗れる人というのが宇宙飛行士だったということですね。私も希望はしていましたけれども、いろいろな理由が重なって宇宙飛行士の夢は破れました。その後、飛行機にしようか、自動車にしようかと、だんだん地上に降りてきたのです。最終的には、自分が学生時代に勉強していたのがサスペンションだったというところから自動車。自分が乗りたい、たくさんの人に影響を及ぼせる、喜んでもらえるかもしれない。だから自動車を選びました。
有働 現在はどういうことをしていますか?トヨタ自動車に入ると、自動車をつくる人はずっと作れるのですか。
片岡 私は入社した頃に「月面車をつくりたい」と宣言しました。オフロードのランドクルーザーとかハイラックスのサスペンションをやって、そのあとは車全体の企画を経験すれば月面車をやらせてくれるのではないかと。ずっとそれで歩んできました。2009年、ある車の開発責任者をやらせてもらって、その頃にもう一回具体的に「ロボット月面車をやらせて欲しい。僕に5人ください」と言ったのですが、「5人もやれるか」と言われ、あえなく撃沈しました。その後は車の開発をしていましたが、2010年にマーケティングの会社に出向しなさいと言われました。ここでまた人生が変わりまして、人のことも観察して、人を中心に考えたときに、どういう行動をするかとか、何を考えているかとかを考えることが面白くなってきたのです。コミュニケーションというのはすごく勉強になりました。コミュニケーションは人の心を動かすことができるなと。今は兼務ということで、トヨタと世の中をつなぐことができたらと思っています。それから今「KIBO ROBOT PROJECT」で、いろいろな方たちと一緒に仕事をしています。JAXAさんの協力の下にやらせていただいています。このロボットの知能化をトヨタが担当させていただいています。コミュニケーションロボットを宇宙に送り、星出さんの次に行くのは、ロボット宇宙飛行士と言ってしまってよいのか、ロボットです。若田光一さんを宇宙ステーションでお迎えして、お見送りもして、最後は「はやぶさ」のように帰ってこられたら、という壮大なプロジェクトを今みんなでやっています。
■ 極限環境で働くということ、極限環境の技術とは
有働 皆さん過酷な状況の中にいらっしゃって、「この技術があって助かった」とか、我々では窺い知ることができない技術ってありますか?
星出 宇宙は人間が生きていけませんが、船内は快適です。酸素もあれば温度も管理されている。食事もトイレもある。快適なのは、過酷な環境でそれだけの生命維持のシステムがしっかりできているからです。環境を整えてもらっているから、我々はいろいろな作業ができます。今は、水の再生技術。タンクにたまった我々のおしっこが飲める。将来、たとえば月とか火星に行くときに必要になる技術です。
有働 船外活動を、テレビ局で「あれが切れちゃったらどうしよう」とか、「あんまり遠くに行かないで」とひやひやしながら見ていました。地球上でつくった技術は、上では何か違いがありましたか。
星出 宇宙服は「小さな宇宙船」と言われています。人間を生かしておく酸素ボンベも入っていますし、二酸化炭素を除去する装置もある。バッテリーも付いていますし、こもる熱を取り除くための冷却システムもしっかりしている。8時間くらいしか活動できませんが、宇宙に出ていくための技術の結晶です。アメリカ、ロシアが長年培ってきた技術が使われていて、本当に安心して活動することができました。実は日本でも今、宇宙服の研究というのをやっています。日本独自の技術で改善していけば、将来、日本の宇宙服を着て宇宙空間に出るという日も来ると思っています。
有働 日本製の宇宙服が出来上がったら、いちばん安全で、安心で、快適な気がしますけれども。片岡さんは宇宙ステーションとかを見るとどんな技術に目が行きますか。
片岡 今のお話を聞いても、エンジニアとして本当にわくわくしますね。宇宙の技術は未来が詰まっていますし、そこでの信頼性はすごく誇れるもの。車も同じだと思っているのですが、そういうところにフィードバックできるのでは、とわくわくします。
有働 日本の技術で開発されたものが宇宙でバンと出たら、一気に世界にアピールできますよね。
片岡 先ほどの「KIBO ROBOT PROJECT」について。宇宙は希望が溢れている場所。宇宙飛行士という人類の憧れの人、そこに未来の希望となるロボットが一緒になる、その姿こそが、我々が考えている未来社会、人とロボットが共生する未来社会をイメージしてもらうのに、期待してもらうのに、いちばん良い発信する場所だと思っています。
有働 南極の最新技術はありますか?
大野 南極では夏の間にいろいろな建設があります。僕達の時は自分たちが住む家を造りました。2カ月で造れと言われて、素人ばかりで困りましたが、コンクリートは1日で固まる特殊なものでした。建物も、言われた通りに造っていくだけで完成させることが出来ました。よく考え抜かれた技術が使われているなとびっくりしました。
もう一つ、オーロラの観測にはロケットを飛ばしたり、100メートルの気球を飛ばしたり、最新技術を使いますが、船で持っていったものを最後はソリで引っ張るとか、人間が運ぶのです。科学と人間っておもしろい関係だなと思いました。
もう一つ、オーロラの観測にはロケットを飛ばしたり、100メートルの気球を飛ばしたり、最新技術を使いますが、船で持っていったものを最後はソリで引っ張るとか、人間が運ぶのです。科学と人間っておもしろい関係だなと思いました。
有働 そこを耐え抜かれた大野先生もすごいと思います。皆さん、今まででいちばんのトラブルは何ですか?
星出 滞在中にトイレがよく壊れたのはピンチでした。夜にトイレに行ったら、「あれ、なんか警告灯がついている」と。どうしよう。地上に「どうする?」と聞きました。地上がいろいろ調べた後で、「原因はわかったので修理しなきゃいけないが、今夜やる? それとも明日?」と言われ、みんなお互いの目を見て、「今日やる」と。
有働 大野さんはどんなトラブルが。
大野 1年間向こうにいたうちの最後の4カ月は、隕石調査といって内陸旅行に行きました。雪上車に4カ月間ずっと住み続けるのですが、行った瞬間、4台のうちの3台が壊れました。マイナス40度で走っているので、朝はなかなかエンジンがかからないなどのトラブルが起きます。みんなで3台のうちの1台を潰して、その部品を使って2台を復活させて、最後は3台で行きました。マイナス40度の中で頭がボーっとしながら、手も凍えるし、「だけど、これをしなくては生きて帰れないんだ」と思えば、みんな頑張れましたね。
■ チームワークの大切さ
有働 南極だと1年ずっと一緒なのは40人くらいですか?
大野 年によって違いますが、今は30人ほどです。僕たちの時には40人でした。40人いると、いろいろな人間がいます。朝起きてから仕事に行って帰ってきても同じ顔しかいない。これがけっこうストレスですね。南極で鍛えられたのは、嫌な人がいても、「仲良くやらない限りは生きて帰れないんだ」と思ったら、仲良くなってしまうのです。人間はそこが面白いですね。
有働 片岡さんはご苦労ないですか?
片岡 メンバーを自分たちで選べるわけではないですから、与えられたメンバーで成果を出さなければいけない。チームワークは、リーダーシップと、人材育成と、それぞれの個人を尊重するというのをセットで考えないとダメです。適材適所でだれにどういう仕事を与えるのか。それによって彼らにモチベーションを与えて成長してもらって、自律的に動いてもらって、その個々の力を結集したときに初めて個々の和よりもプラスの能力が出せる。プロジェクトとして機能するのだと思います。
有働 宇宙はどうでしょうか。
星出 完璧な人間はいないです。サポートし合う環境は宇宙でありました。誰かが疲れているなら、これを手伝おうかとか。長い複雑な作業を誰かがしなければいけない。そういうときにほかの飛行士が自分のスケジュールを見て、自分はこれとこれをやってしまえば、あとは時間が空くから、そこはちょっと手伝おうとか。あとは地上とのチームワークです。宇宙では6人ですが、世界中に散らばっている地上のスタッフたちと補完し合います。軌道上では分からないデータを地上では持っていますし、逆に地上では、宇宙で作業するときにどんなことが難しいのかがわからない場合もあるので。話をして補完し合って最終的に解を見つけるという、そういう作業はあります。我々は「NOLS」という野外リーダーシップ訓練をします。山の中へ行ったり、雪山でソリをみんなで引いたり、カヌーに乗っていろいろなところを巡ったりと。そのときにわざと毎日リーダーを変えます。その日のリーダーがその日の行動を決めて、「今日は天気が悪いからここで止まっておく」とか、いろいろなことを判断して進めます。そのときにリーダーを盛りたてるフォロワーの行動がものすごく大事で、カバーし合っていくという、そういう意識が大事かなと。
有働 教育の現場でも参考になるお話です。南極はどうですか。
大野 南極は、どういう人を隊員に選抜するのかを各国でいろいろ研究されています。一番困った人をどう排除するかという話で、そういう研究は進んでいましたが、結局うまくいかなかったのです。なぜかというと、一番困るだろう人を外すと、次の人が困った人になってしまうのです。だから結局いつまでたってもなくならない。困った人は、日本にいたらまったく普通に生活していて、何も困るわけではないのです。「また、あいつが」という人がいることで、みんなはまとまって、心穏やかに生活できるのです。大事なことは、そういう人がみんなから何を言われようがニコニコしながら1年間いてくれることと、その人が隊には必要なのだということを分かった上で、リーダーがきちんと認めて守ってあげる。そういうリーダーシップ、チームがあると、みんながのびのびとやっていけるのではないかと思います。
■ 科学技術を継続することの意義
有働 私のような素人が科学技術と聞くと、時間がかかる、お金がかかる。それで、結果が100%約束されているかというとそういう訳ではないという感じで。今みたいな時代では目の前の成功や利益を追いかけがちですが、宇宙に行かれて、皆さんに夢も与えられている星出さんから見て、科学技術に費やす時間、お金、人手はどういうふうに大事ですか。
星出 ロケット一つとっても長年の研究と開発があってはじめて今、定期的に宇宙に行ける。きぼうの技術、こうのとりの技術も、長年の積み重ねがあってここまで来れた訳です。たしかに時間もかかりますし、お金もかかりますし、人手もかかりますが、そこは日本の技術力を上げていく一つの大きな力だと思います。たとえば携帯電話、皆さんも普通に使っていますが、昔はSF映画にしか出てこなかったものです。みんながこういうものを開発しようと思い、いろいろな基礎研究を積み重ねたからです。それが、長期的な視野に立ったときに大事なのだと思います。
有働 例えば、景気が悪い間、その基礎研究なり科学技術に費やすお金はちょっとお休みして、何年か後にまた日本経済が復活したら積極的に参加するということについてはどうですか。
星出 アメリカの例では、スペースシャトルを開発し、運用して、その間に新しい技術を開発していなかったのです。その間、技術の伝承というのがなされていなかったということがあって、今新しい宇宙機を作りましょうとなって、本当に苦労しています。継続することの重要性はあります。日本の国として非常に大事なのではないかなと思います。
有働 片岡さんはどう思いますか。
片岡 今、「継続」という話があったのですけれども、継続するということは、実は進化させていかないと継続できないのです。途中が抜けてしまうと、その間継続して進化させていたはずのところまでジャンプアップしないといけない。科学技術というのは、良い種をまいて、良い時期に刈りとれるように仕掛けていかなくてはいけないので、それなりの時間がかかるものだと認識しています。
でも実は、その過程で人が育つのです。育った人が今度はまた新しい技術を開発していくので、長期的な視野で見ることもありますが、短期的には人が育っているということにも着目しないといけないのではないかと思います。
でも実は、その過程で人が育つのです。育った人が今度はまた新しい技術を開発していくので、長期的な視野で見ることもありますが、短期的には人が育っているということにも着目しないといけないのではないかと思います。
大野 南極は探検の時代は終わって、今は最も人間から離れたところなので地球の本当の姿が見えるということで研究されています。オゾンホールは、実は日本の昭和基地がずっと長年、毎年積み重ねてきたデータで発見されたものです。1年も欠かさず継続してやることがとても大事なものはあります。一旦切れてしまうとデータがダメになってしまう。何十年も越冬を続けられる国というのは、世界でもそんなにたくさん無いのです。それを、技術を持っていて、しっかりした人もいて、経験もある日本がきちんとやることが、世界に対する責任かなと思います。
有働 2011年に『宇宙の渚』というNHKスペシャルの番組で、宇宙から古川聡さんに実況中継していただいて、オーロラを宇宙から見ました。BSの何時と何時にやって、何時くらいにオーロラが見えて、と細かいことをNASAの方にお願いしなきゃいけないのですが、JAXAの方が本当に動いてくれました。そのやりとりを聞いていて、JAXAさんとNASAさんの対等な信頼関係というのがあるなと思いました。JAXAさん、NASAさんが培ってきた力関係というものはあるのですか。
星出 ありますね。有人の世界ではアメリカ、ロシアは先輩ですから。日本は当時そういう技術が無かった。それから20年一生懸命技術力を伸ばして、ようやく「きぼう」「こうのとり」の技術で対等のパートナーであると認められたわけです。今は国際的にも認められたチームの一員です。
■ エンディング
有働 皆さん、これからどんなことに挑戦していかれるのか教えて下さい。大野さんから。
大野 外科医ですから、手術をたくさん。
有働 先生、手術もしているのですか。
大野 もちろん。けっこううまいんです。南極で1年間ずっといるということが、今後、火星に行くこととちょっとリンクするのかなと。宇宙と南極をつなげる研究チームを作りたいです。
有働 片岡さんはどうですか。
片岡 先ほどの「KIBO ROBOT PROJECT」。日本のモノづくりに希望を与えることもできるし、子どもたちに夢を与えることもできるのではないかと思います。トヨタ1社ではなくて、日本の他の企業の方たちと一緒にやるという形で何か動かしていくことも大事なのではと。車は、今まで人や物を運ぶ、動かすという役割でしたが、心を動かすところまで拡張できたら世の中がよくなっていくのではないかなと思っています。そういうところまで挑戦してみたいです。
有働 星出さんはどうですか。
星出 まずは、また国際宇宙ステーションに行きたいなと思っています。その先には、月とか火星とか、より遠くにという話を今、国際的にし始めているのです。宇宙先進国である日本としてはそこにきちんと貢献していく。人類のために貢献していくということも大事じゃないかなと。そこまで個人としても貢献していけたらなと思っています。
もう一つあって、今は限られた宇宙飛行士と、さらに少数の大金持ちしか宇宙に行けていませんが、宇宙は限られた人たちのためだけのものではありません。皆さんが宇宙に行けるような時代に早くなって欲しいですし、そうなって初めて、いろいろな可能性がさらに広がり、新しい意識、文化というのが生まれてくると思います。そういう時代に早くするべく、何か貢献していきたいです。
もう一つあって、今は限られた宇宙飛行士と、さらに少数の大金持ちしか宇宙に行けていませんが、宇宙は限られた人たちのためだけのものではありません。皆さんが宇宙に行けるような時代に早くなって欲しいですし、そうなって初めて、いろいろな可能性がさらに広がり、新しい意識、文化というのが生まれてくると思います。そういう時代に早くするべく、何か貢献していきたいです。
■ 会場との質疑応答
Q:「一般人が宇宙旅行に行ける時代を早く実現するためには、国や市民、社会はどのようにすればよいと思いますか。科学技術への興味や知識を高めるには、国や市民、社会はどのようにすればよいと思いますか」
星出 「サポートしたい」と言っていただくことがいちばん大きいです。宇宙開発の有効性などは一生懸命アピールしているつもりですが、皆さんの声をきちんとお聞きできていないのかなと思っています。応援の声が高まれば、そういう方向に国や組織として頑張っていける推進力になります。
Q:「多国籍の人々が十分理解し合うために、コミュニケーションの際に注意していることは何ですか」
大野 南極は、実は他の国とはあまり関係ないです。孤立していますから。一番近くにいるのはペンギンですが、なかなかコミュニケーションできなかった。いつも冬になると、(他の国の人と)連絡を取り合って、「なんとか頑張ろう」というようなことはあります。やはり共感し合っていますね。「同じ仲間なんだ。南極で頑張っているんだ」と。
片岡 私は世界戦略車を担当したことがあります。10カ国くらいで造っていた車だったので、そのときには海外メンバーとコミュニケーションをとらなければいけない。それも日常のコミュニケーションが大事だなと思いました。世の中にとって本当に良い車を出そうよという気持ちが一緒であればあるほど、何かしらトラブルやミスコミュニケーションはありますが、目標が一致していれば良い。それを掲げることが大事だったと思います。
星出 全く一緒です。15カ国も参加しているプロジェクトですから、利害が一致しているわけではない。主義主張も思惑もありますが、国際宇宙ステーションという大きな目的があるので、調整して、カバーし合って進めることができると思っています。宇宙飛行士は、腹を割って話をし合える関係が大事です。今、僕はあまり国籍を考えないです。人として接するだけになっていて、しゃべる言葉が英語だったりロシア語だったりしますが、国籍すら考えないくらい懐に入っていけているのかなと思います。それは、結局、一杯飲むことなのですが。準備段階で飲みながら、どうでもよいような話をしながら互いの人となりを知っていくということが非常に大事なのではないかと。そこでミッションの成否が決まってくると言っても過言ではないと思います。
Q:「船外活動の前後で、無重力空間へのイメージや感情で何か変化したことがありましたら、教えてください」
星出 宇宙ステーションのエアロックは地球の方向に面していて、開けると真下に地球が見えます。初めて船外に出る宇宙飛行士がパッと見たときに地球がものすごいスピードで回転しているので、「落ちる」と思って手すりをギュッと握ってしまうというのです。宇宙なので落ちることはないのですが。今回、「自分もそうなるのかなあ」とドキドキしていましたが、ちょうど夜で真っ暗だったので何も見ませんでした。それで作業に集中していました。途中でちょっとだけふっと力を抜いてまわりを見る瞬間があって、「水中訓練から水を抜いて、周りのサポートダイバーがいなかったら、こんな感じなんだな」という慣れ親しんだ映像が目の前に広がっていたという感じです。思わず、本当は空気で満たされているのではないかと、ヘルメットを脱ぎそうになりましたけど。また、船外活動でロボットアームの先端について宇宙ステーションの一番前まで出て、前を向いている数分間がありました。視界に一切構造物が映っていない。目の前に広がるのは地球と宇宙だけという。下を覗きながら感動していました。宇宙の中で地球がなければ生きていけないなと、改めて感じた瞬間でもありました。
■ 星出飛行士から会場へのメッセージ
今回は地上、軌道上のチーム、みんなで成し遂げたミッションだと思います。今この瞬間も宇宙ステーションは飛んでいて、軌道上の6人の仲間と世界中の仲間が協力し合って仕事をしています。やはり人と人の繋がりがあって初めてこういうことができるのだなと思います。日本がこれだけの大プロジェクトに参加できているということは非常に光栄ですし、次に繋げていきたいです。これから月、火星、先ほど申し上げたように皆さんが宇宙に行ける時代に向けて一緒に頑張っていきたいと思いますので、今後とも応援よろしくお願いします。
閉会挨拶
長谷川義幸(宇宙航空研究開発機構 有人宇宙環境利用ミッション本部長・理事)
星出飛行士が行った仕事の中で少し加えさせてもらいたいのは船外活動についてです。実際は、星出飛行士の技量があるからこのチャンスがもらえた訳ではないのです。我々が応分の負担を「きぼう」および「こうのとり」で、全体の運用共通経費の中で負担している。そこに対する対価として宇宙飛行士が滞在できる、いろいろな実験の機会と時間をもらう。今はそういうような状態です。
さらに、今回1回の予定だった星出飛行士の船外活動が2回、3回になったのは、星出飛行士の作業の正確性、スピードをNASAが認めたからということがありますが、その後ろには優秀な技術部隊の存在があるからということも覚えておいていただきたいです。
今、宇宙で使われているのは、従来のような宇宙用の高級部品ではなく、ハイビジョンカメラや家電量販店で売られているような民生品です。「きぼう」が上がって、安全審査の実験装置の部分は日本が権限を委譲されました。従って、我々が民生品のいろいろなカメラやコンピュータを自分たちの審査で上げることができるようになりました。いろいろな映像装置、表示装置、安く確実に上げる手段が分かりました。日本の民生技術は世界最高です。NASAやロシアなどはそれらを使いたがります。NASAには直接メーカーにオーダーしてもらうことにして、買ってもらっています。
日本もやっとこの状態まで来ました。今は、「きぼう」およびISSは2020年までやりましょうということ。ロシアは2040年までやる。NASAは2020年までやりましょうということを言っています。日本もその方向にいっているのですが、存在感を見せれば見せるほど日本のレベルが上がるという意味で、この種の会を開きますので、ぜひご参加ください。インターネット中継もしていますので、ぜひご覧ください。長時間熱心に聞いてくださり、ありがとうございました。
さらに、今回1回の予定だった星出飛行士の船外活動が2回、3回になったのは、星出飛行士の作業の正確性、スピードをNASAが認めたからということがありますが、その後ろには優秀な技術部隊の存在があるからということも覚えておいていただきたいです。
今、宇宙で使われているのは、従来のような宇宙用の高級部品ではなく、ハイビジョンカメラや家電量販店で売られているような民生品です。「きぼう」が上がって、安全審査の実験装置の部分は日本が権限を委譲されました。従って、我々が民生品のいろいろなカメラやコンピュータを自分たちの審査で上げることができるようになりました。いろいろな映像装置、表示装置、安く確実に上げる手段が分かりました。日本の民生技術は世界最高です。NASAやロシアなどはそれらを使いたがります。NASAには直接メーカーにオーダーしてもらうことにして、買ってもらっています。
日本もやっとこの状態まで来ました。今は、「きぼう」およびISSは2020年までやりましょうということ。ロシアは2040年までやる。NASAは2020年までやりましょうということを言っています。日本もその方向にいっているのですが、存在感を見せれば見せるほど日本のレベルが上がるという意味で、この種の会を開きますので、ぜひご参加ください。インターネット中継もしていますので、ぜひご覧ください。長時間熱心に聞いてくださり、ありがとうございました。