開催結果報告
第一部:ここでしか聴けない宇宙の話
「ここでしか聴けない宇宙の話」と題し、「宇宙兄弟」の漫画の話を交えながら、宇宙飛行士の選抜方法や訓練、きぼうでの実験、小型衛星放出の話を紹介し、会場からの質問に随時答えるといった方法で、会場と活発な交流を行いました。
トークセッション「ここでしか聴けない宇宙の話」
モデレータ | :長谷川 義幸(JAXA理事) |
コメンテータ | :JAXA宇宙飛行士 |
講演者 | :1)宇宙飛行士選抜試験のウソ・ホント? 山口 孝夫(JAXA宇宙飛行士運用技術部) 2)有人宇宙活動を支える訓練にせまる! 堂山 浩太郎(JAXA宇宙飛行士運用技術部) 3)宇宙発!くらしを豊かにする技術 池田 俊民(JAXAきぼう利用推進室) 4)宇宙への挑戦!~超小型衛星~ 坂本 祐二(東北大学 大学院工学研究科 助教) |
トークセッション(動画)
写真レポート
長谷川 義幸 (JAXA理事)
金井 宣茂(JAXA宇宙飛行士)
山口 孝夫(JAXA宇宙飛行士運用技術部)
山口氏のセッションの様子
堂山 浩太郎(JAXA宇宙飛行士運用技術部)
堂山氏のセッションの様子
池田 俊民(JAXAきぼう利用推進室)
池田氏のスライド
池田氏のセッションの様子
坂本 祐二(東北大学 大学院工学研究科 助教)
坂本氏のスライド
坂本氏のセッションの様子
【 会場との主なQ&A 】
1. 「宇宙飛行士選抜試験のウソ・ホント」
講演者:山口 孝夫(JAXA宇宙飛行士運用技術部)
講演者:山口 孝夫(JAXA宇宙飛行士運用技術部)
- Q.
- 閉鎖環境試験は本当に一週間実施したのでしょうか。
- A.
- 長谷川 一週間実施しました。
- Q.
- 「宇宙兄弟」の漫画では受験者にストレスを与えるグリーンカードについて取り上げれれているが、実際の閉鎖環境試験の時、グリーンカードのようなことは行ったのでしょうか。
- A.
- 長谷川 漫画の中では時計やトイレ等の設備を壊していましたが、国費で購入した設備を壊すようなことはもちろんありません。しかし、理不尽な要求で精神的にプレッシャーを与えたり、日本語で話している中で突然英語で話すように指示したり、場を和ます一発芸をさせたりすることはあります。このようにグリーンカードのように受験者にストレスを与え、反応を見ています。
- Q.
- 漫画にあったように、受験者間で次の試験に進む人を選ばせることはあるのでしょうか。
- A.
- 長谷川 ありません。JAXAで決定しています。
- Q.
- 子供を宇宙飛行士にするために、どのような教育をすればよいでしょうか。
- A.
- 長谷川 自分の子供には小さなころから宇宙の話をしてきましたが、小さなころからずっとそればかり聞かされていると嫌になってしまうようで、二人とも違う分野に進みました。講演にあった「健康」、「資質(チームワーク)」、「知識」のうち、「健康」は非常に大事です。金井飛行士の選抜の時も、良い成績の受験者のうち7割以上が精密検査により落選しました。「知識」は努力すれば身に付きます。「チームワーク」については、話をきちんと聞いて行動することを教えようとしましたが、なかなかうまくいきませんでした。
金井 チームワークは重要です。宇宙飛行士は一人では仕事はできません。訓練スタッフ、管制官、科学者など、色々な人がミッションに関わっているため、コミュニケーション能力が重要です。
- Q.
- 閉鎖環境試験における、見る側(JAXA)とみられる側(受験者)の感想はどうでしょうか?
- A.
- 金井 「宇宙兄弟」とは違い、食事は自炊ではなく毎回食事が届けられ、みんなで楽しく過ごしていました。試験の後で、見る側は受験者とは違い、コンビニの食事で済ましていたと聞きました。
山口 我々はコンビニの食事でした。ただ、受験者が食事している間も、食べ方や、周りと話をしているか、などについても観察していました。
- Q.
- 普段の仕事においては英語は使用しないので、急に身に付きません。ある程度募集の時期がわかっていれば準備ができるので嬉しい。次のスケジュールを教えて欲しいです。
- A.
- 長谷川 未定です。募集する際は飛行士の充足が目的ですが、ISSの運用が決定している2020年までは選抜された三名や野口飛行士、若田飛行士等で十分足りる状況です。2020年以降の運用については、決定すれば募集も行うこととなるだろうと思います。政府方針次第です。
2. 「有人宇宙活動を支える訓練にせまる!」
講演者:堂山 浩太郎(JAXA宇宙飛行士運用技術部)
講演者:堂山 浩太郎(JAXA宇宙飛行士運用技術部)
- Q.
- 異文化訓練の意義は何でしょうか?
- A.
- 金井 閉鎖環境試験は日本人同士だったため意志疎通が非常に楽でしたが、異文化訓練はこれとはかなり違いました。特に違いを感じたのはリーダーシップの取り方です。アメリカはリーダーシップとフォロワーシップが明確で、フォロワーは積極的にリーダーのサポートを行っていました。ロシアはリーダー(コマンダー)が絶対的な存在で命令に従います。日本がリーダーの場合は、メンバーの意見を聞いてコンセンサスを得ることを重視していました。国柄や人柄を知ることは有意義でした。
- Q.
- 「日本の訓練は非常に丁寧で親切だ」と評判がよいと聞いていますが実際はどうでしょうか。
- A.
- 堂山 非常に丁寧で親切と言われています。基本をNASAから導入した後、10年近く効率的に教える方法を検討してきました。今では訓練を逆に輸出しているほど評判が良いです。
長谷川 訓練のマニュアルについて言えば、ロシアはかなり大まかな印象で、逆にアメリカは細かい印象があります。日本は図などを入れたことが良かったと聞いています。
- Q.
- チームワークを高める方法として、ただチームで過ごすだけでなく部分訓練(100m走でいえばスタート訓練のような)やフィードバック手法などはあるのでしょうか。
- A.
- 堂山 CAVESはESA管轄で、洞窟ということもありかなり管理されています。これに対し、NOLSは米国管理でほぼ放置です。セルフディスカッションが重視されていて、誰かが教えるのではなく相互に議論することでフィードバックを得るようになっています。
- Q.
- 異文化交流で何か困ったことはあるでしょうか。
- A.
- 金井 ロシア人はお酒が強く、ノミュニケーションの世界だったのが大変でした。初対面では非常に怖い雰囲気だったロシア人が、ウォッカが入ると笑顔になり、一緒に飲み明かすと親友となり親切になったこともありました。
- Q.
- 訓練で一番難しかったのは何でしょうか。
- A.
- 金井 -20~25℃の極寒の中で二日間生き延びるロシアのサバイバル訓練です。
長谷川 若田飛行士のサバイバル訓練の時には、気温が-30℃まで下がり、生命の危険があるということで一時避難したこともあります。
- Q.
- 訓練で、自衛隊に居たという経験は生かされたか。
- A.
- 金井 自衛隊では1週間、1ヶ月、みんなで行動することもあり、集団行動は慣れていました。閉鎖環境試験はこれに近いものがありました。
- Q.
- 最近選抜された三名のうち誰かが辞退した場合、第二補欠が繰り上がることはあるのでしょうか。
- A.
- 長谷川 今からでは訓練が間に合わないため、ありません。
- Q.
- 宇宙飛行士候補者となったものの、宇宙へ行くことなく訓練中に辞めた人はいるのでしょうか。
- A.
- 長谷川 NASAの場合、飛行士になってから5年間アサインがなければ宇宙に行く機会がないということで辞める飛行士もいます。「宇宙兄弟」にもそのあたりのことは書いてもらいました。
3. 「宇宙発!くらしを豊かにする技術」池田主任
講演者:池田 俊民(JAXAきぼう利用推進室)
講演者:池田 俊民(JAXAきぼう利用推進室)
- Q.
- 宇宙医学について、何か思うところはありますか?
- A.
- 金井 飛行士になる前は、外科医としてたくさんの患者さんを診てきました。癌など、現在の医療では治療の難しい病気で亡くなる患者さんも多かったため、臨床として無力感がありました。将来ISSを通じて、より多くの患者さんを救える可能性があるのは嬉しいことです。
- Q.
- タンパク質実験について、米国とも協力の話があると聞いていますが、ロシアとは既に協力を実施しているのでしょうか
- A.
- 池田 日本の装置で良い成果が出ているため、ロシアとも協力活動をしています。具体的には、ロシアが選定したタンパク質試料を一部搭載する代わりに、タンパク質試料を詰め込んだ装置の打ち上げと地上への回収をロシアに実施してもらっています。
長谷川 マレーシアとも有償による協力活動を実施している。日本の成果がよいため、米国もタンパク質実験に再び挑戦しようとしています。
- Q.
- どのように宇宙実験に供するタンパク質を選定しているのでしょうか。
- A.
- 池田 1回あたり50サンプル程度の実験実施が可能で、具体的なターゲット(筋ジストロフィなど)があるものを優先しています。また、宇宙実験に向くタンパク質について評価指標もわかってきています。その他、新規参入者の枠や、国で重要と指定されているタンパク質の枠など、カテゴリーを種々設けています。
- Q.
- 材料実験について、宇宙環境は特殊と思いますが得られた成果を地上に還元できるのでしょうか。
- A.
- 池田 例えば静電浮遊炉という実験装置があります。微小重力という特徴を活かし、物質を浮かせて振動を加えることで粘性や表面張力などを調べることができるものですが、これは宇宙のみで可能なことです。しかし、これらのデータが地上の結晶化におけるパラメータの最適化等に活用できるということがあります。
4. 「宇宙への挑戦!~超小型衛星~」
講演者:坂本 祐二(東北大学 大学院工学研究科 助教)
講演者:坂本 祐二(東北大学 大学院工学研究科 助教)
- Q.
- 新しく、ISSの処理水を推進力として使った衛星等の実施の可能性はあるのでしょうか。
- A.
- 長谷川 リモートコントロールで多くの部分が実施可能ですが、今回は星出飛行士がチェックアウトを実施したというのが特徴的です。安全に支障がないものでいい提案があればJAXAに提案して欲しいです。
- Q.
- 衛星は放出された後、燃えてしまわないのでしょうか。
- A.
- 坂本 今回の衛星は高度400kmで放出できましたが、仮に350kmからの放出であれば3か月で高度300kmに下がり、更に1ヶ月もたてば大気圏に突入して燃え尽きてしまいます。今回は400kmからの放出のため長い期間実験できるものの、最終的には大気圏に突入します。むしろ、デブリが出ないように高度600-700kmの衛星も地球に落とせるように設計されています。高度700-800kmとなれば50-100年飛び続けるためデブリの問題が生じてきます。RAIKOでは膜により敢えて抵抗を作って高度を下げるような実験も実施しています。
- Q.
- 超小型衛星であれば使い捨てのような使い方も可能に思えます。例えば震災直後に低軌道で高解像度の衛星を放出するなどの使い方も可能ですか?
- A.
- 坂本 あらかじめ衛星は製作・準備しておく必要がありますが、実際はそれまでの準備が長いです。二年前から準備を始め、一年前から搭載を公表していました。
長谷川 安全審査が長くかかりました。一度打ち上げればその期間は短縮できます。準備をしておいて、何かがあった場合にHTV等を用いて打ち上げるようなことも可能かもしれません。良いアイデアを今後も検討していきたいと思います。