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2026.05.21
  • 訓練

航空機操縦訓練

  • 大西 卓哉
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訓練で使用した小型プロペラ機。右:大西宇宙飛行士、左:教官
2025年8月にISSから帰還した大西宇宙飛行士は、日本に帰任し、国内に訓練拠点を移して活動しています。ISSミッションに従事している期間はミッション固有の訓練に専念するため、航空機操縦訓練は一時中断していました。今回は約3年ぶりに実施した航空機操縦訓練(2026年3月)を紹介します。

1日目:座学およびシミュレーター訓練

初日は座学およびシミュレーターを用いた訓練を実施しました。元民間航空会社パイロットである大西宇宙飛行士からは、「操縦感覚がかなり鈍っていた」との率直な感想がありました。
プロペラ機では、エンジンの力を強くすると、機体が自然と左に向こうとする特性があります。そのため、操縦士は右足のペダルを踏んで進行方向をまっすぐ保つ必要があります。手足を連動させた操作や、多数の計器を瞬時に読み取るスキルが求められ、改めてマルチタスク能力の重要性を実感する訓練となりました。こうしたマルチタスク能力は、宇宙船や月着陸船を操縦するうえでも必要な能力になります。

2日目:実機フライトによる基礎技量訓練

2日目は実機によるフライト訓練を実施。大分空港を離陸後、低速飛行、失速からの回復、急旋回、エンジン不作動を想定した模擬訓練など、基本的な操縦科目を練習しました。
その後はタッチアンドゴーによる離着陸訓練を実施。実機ならではの機体挙動を体全体で感じながら操縦することで、より実践的な訓練となりました。
プロペラ機を操縦する大西宇宙飛行士

3日目:計器飛行方式(IFR)による実機フライト

3日目は計器飛行方式(IFR: Instrument Flight Rules)による実機フライトを実施しました。
航空機操縦には、IFRとVFR(Visual Flight Rules:有視界飛行)の2つの方式があります。IFRは雲の中や夜、悪天候などで外が見えない状況でも、高度・速度・姿勢・位置をすべて計器と管制官の指示で判断し飛行できる方法です。外部の情報が少なく、また方向感覚を失いやすい宇宙飛行でも、IFRで必要なスキルはとても重要になってきます。これらのスキルは、宇宙船の手動操縦やロボットアームの操縦をする際に役立ちます。
計器飛行方式の準備
この日は大分空港から高松空港をIFRで往復しました。IFRでは、航路確認、気象情報の収集、航法計画の立案など事前準備が重要となります。訓練ではチャート(地図)や航法計算盤を用い、風向・風速の予報データから対地速度、所要時間、燃料消費量を算出しました。手作業での計画作成が、フライト全体の流れをマネジメントすることの第一歩となり、実機でのフライトに役立ちます。

訓練後、筑波に戻った大西宇宙飛行士は、チャートやフライトログを用い訓練の復習と次に向けた予習を進めました。

航空機操縦訓練は、宇宙飛行士として必要な基礎能力を総合的に向上させることを目的としています。特に、緊張下で状況を正確に把握し判断する能力、計器の判読力、マルチタスク能力、通信または隣席パイロットとのコミュニケーション能力を鍛える訓練です。
これらの能力は「Crew Resource Management(CRM)」として体系化されており、将来のアルテミス・ミッションにおいても重視されるスキルです。
ヒューストンを拠点とする宇宙飛行士はNASAにてT-38ジェット機での訓練を行いますが、日本国内ではプロペラ機を用いた操縦訓練が実施されています。機体は異なっても、その目的と意義は共通しています。

※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA