開催結果 REPORT

<トークセッション第一部>若田飛行士×阿川佐和子 特別対談

トークセッション第一部 動画

若田光一宇宙飛行士(JAXA)

若田光一宇宙飛行士(JAXA)

阿川佐和子氏 (作家・エッセイスト)

阿川佐和子氏 (作家・エッセイスト)

若田宇宙飛行士のミッション報告会に続いては、阿川佐和子さんをお迎えしてのトークセッション第一部が行われました。和やかな雰囲気の中で、次々と繰り出される阿川さんの鋭い質問にも若田宇宙飛行士はしっかり答え、時折冗談を交えるなど、会場は笑いに包まれました。

いつも「ニコニコ」の理由とは?

阿川 帰ってきてからもお忙しそうなことったら。

若田 そうですね、この1カ月間、北は岩手の方から南は山口、福岡の方まで帰還報告会を行いました。

阿川 これだけ忙しくて、それでもニコニコ顔がちっとも消えない。まずうかがいたいのは、不機嫌になることはないんですか?

若田 いやー、それはありますね。でも宇宙の仕事っていうのは本当に楽しいことばかりですので。いつもニコニコしすぎているんじゃないかなって思いますけれども、真剣な顔をしているときもありますよ。

阿川 そうなんですか、笑っている顔しか見たことがないような気がして。


意外に近い?地球から国際宇宙ステーションの距離

阿川 ISSは地球から400キロ離れた所にあると。これは前、野口宇宙飛行士にお会いした時に「ええ!」と思ったのですが、400キロって遠そうに見えて案外近いじゃないっていう……。

若田 そうですね、大阪より近いですよね。

阿川 例えば、東京から行ったら名古屋越えたあたり?

若田 ちょっと先ですよね。

阿川 名古屋のもうちょっと先ぐらい?

若田 そうですね。

阿川 新幹線に乗れば2時間ちょっとくらいの距離。

若田 そうですね、まっすぐには行けないので、今回は6時間かけて行きました。スペースシャトルの時は2日間くらいかけて行ったんですね。最近は6時間で行けるようになりました。ソユーズ宇宙船でも、今までは2日間かけて行っていましたね。

阿川 「きぼう」というのは日本の実験棟で。

若田 はい。

阿川 あのサッカー競技場のような……。

若田 そうですね、(映像を指しながら)そこが「きぼう」です。これが「こうのとり」という種子島から打上げられた輸送船です。

阿川 いろんな物を運んでくれるんですよね。宅配便みたいに。

若田 定時出発、定時ドッキングしていて、本当に信頼性の高い宇宙船です。

阿川 じゃあ「今日午後4時に出発しますけど、何か乗せますか?」みたいな感じなんですか。

若田 そうですね。打上げの日がずれたりすると、作業計画を変更しなきゃいけなかったり、結構クルーも大変なんですけれども、きちんと予定通り上がりますので、信頼度が高い宇宙船ですね。


国際宇宙ステーション=国際宇宙選手村?

阿川 国際宇宙ステーションはいわゆる国際宇宙選手村みたいな?

若田 そうですね。

阿川 共同住宅みたいな感じで……ここで働く宇宙飛行士の皆さんの船長になったんですね。皆さん同じ「きぼう」にいるんですか?

若田 いえ、6人の宇宙飛行士が「きぼう」であったり、アメリカの実験室であったり、ヨーロッパの実験室であったり、ロシアの居住棟であったり、いろんな所で仕事をしています。

阿川 それぞれ、自分の国の?

若田 自分の国には限らないです。私は日本の宇宙飛行士ですから、当然「きぼう」の中での実験はたくさんやりますけれども、アメリカの実験室とか、ヨーロッパの実験室とか、ロシアの居住棟での作業もありますし、色々な所で作業します。

阿川 それぞれ違うんですか?

若田 そうですね。設計思想も若干違ったりして、広さも違いますし、その中で行う実験の内容もやはり国ごとに違っています。

阿川 落ち着かない、という所はありますか?

若田 落ち着かない……そうですね、落ち着かないという所は、窓が無い所はなんとなく落ち着かない感じがします。「きぼう」は窓が二つありますね。先ほど紹介したキューポラという、窓がたくさんある部屋。ああいった所で地球を見るとですね、心が落ち着くなと思いますね。

国際宇宙ステーションの日課表

阿川 マウスの精子を用いた放射線影響の実験をしたり、野球したり。

若田 野球はビデオを撮るためにやっただけなんですけれども。

阿川 「皆さんこんにちは」とか言って、番組に出たりとか。なんてハードスケジュールなのかと思うんですけど、だいたい1日どれくらい何をしていらっしゃるんですか?

若田 睡眠時間は夜9時半から朝6時って、日課表で決まっているんですね、日課表で。9時半から6時まで寝ている人はあんまりいないですけど。私は宇宙では6時間ぐらい寝ていましたし、地上とだいたい同じですね。ふわふわ浮いた状態で寝るのは非常に快適ですので、ぐっすり眠れました。

阿川 じゃあベッドいらず?

若田 ベッドは無いです。今は少なくなりましたけど、電話ボックスですかね。ちょうど電話ボックスぐらいの箱形の寝室の中に寝袋が入っていて、その中で眠ることができます。立ったままですね。無重力状態ですので、逆立ちしても全然変わらないです。
眠っていない時はやっぱり仕事。朝は朝礼で地上管制局の皆さんと意識合わせをして、それが終わったら実験だとか観測だとか、整備作業をします。ある時は外に出ていって船外活動したり、宇宙船がやってきたらロボットアームで捕まえるとか、そういう作業がありますよね。昼ご飯もありますし、運動も毎日2時間ぐらいやりますね。夕方、今度は夕礼ですね、今日の作業のレビューをして、明日はこんな作業があるよっていったことについて地上管制局の皆さんと15分くらい会議して、その後は自由時間です。家族に電話したり、メールをしたり、仕事やプライベートのメールを書いたり。宇宙で電子ものの本を読んだり、時間があれば映画を観るとか、そんなこともできますね。

阿川 「ああ忙しい忙しい忙しい」というか……。実験したら実験の記録もとらないといけないでしょうし、日記も付けなきゃいけないでしょうし。

若田 そうですね。ただ、仕事は朝の朝礼から夕方の夕礼までの間に全部終わらせることを前提にしているので、作業自体はそこで終わります。その後、翌日の準備ですとか作業調整があります。さらにゴミ捨てだとか、食料の管理、例えばお魚類が無くなったらお魚の食料を補給したり、汚れているところがあったら掃除をするとか、全部自分たちでやらなきゃいけないんですね。トイレが結構壊れたので、夕方食事の後に直すようなこともあって、結局なんだかんだと、寝る間際まで仕事があるような日もありましたね。

阿川 そういうタイムスケジュールというか日課をなんとなくサボり気味、という人もいるものなんですか?

若田 サボり気味というか……まあ、宇宙飛行士は皆やる気が満々な人なので、宇宙でもきちんと仕事をしてくれますけど、やはりその……なんて言うのかな、疲れやすい人とかもいるわけですね。ですから、皆の健康状態はどうかなとか、ちょっと士気が低下してるかなといったことを、いろんな会話を通して察知しながら……。

阿川 ちょっとアイツ不満に思っているらしいなとか?

若田 そうですね。そのへんは皆が発信しているメッセージを上手く汲み取ってあげたいなって思いながら生活していました。でも皆やる気満々な人なんでね、仕事は非常にやりやすかった。


船長が決まるまで

阿川 そうやって船長として、皆の健康管理もリスクマネージメントもたくさんやらなきゃいけない。今回で4回目の宇宙の旅であり、しかもそのうち2回が長期滞在で、しかも2回目の長期滞在の今回、2カ月は船長を務めてらっしゃった。そもそも「船長に君を指名する」というのはいつの段階で話があるんですか?それとも自分から「僕なりたい、僕なりたい」って言うものなんですか?

若田 船長に限らず、ISSの乗組員として搭乗が決まるのは、宇宙飛行のだいたい2年半くらい前なんですね。

阿川 そんなに前なんですか?

若田 どうしてかというと、2年半かけていろんな訓練をしていくんですね。今回一緒に飛んだのは、私が船長を務めた第39次ISSクルーです。南極探検隊みたいに第何次、第何次ってあって、私は38次と39次のクルーで39次で船長を務めたわけです。
打上げの2年半前 に、このクルーで飛ばすっていうのが決まります。日本やアメリカ、ロシア、ヨーロッパやカナダに宇宙飛行士室というのがあって、そこの人たちが相談してうちは彼を飛ばしたい、アメリカは彼を飛ばしたい……と。

若田宇宙飛行士が考えるリーダーとは?

阿川 それで最終的に「あなた船長決定」って言われた時はどう思われたんですか?だってさっき拝見したメンバー、若田さんのお父さんみたいな人たちばっかりじゃないですか、怖くないですか?

若田 そうですね、私より宇宙飛行の経験が多い人とか年齢が……。

阿川 皆お父さんみたい。

若田 皆すばらしい経験豊かな人で、やる気満々の人たちなんで、その中でリーダーシップをとっていくっていうことが決まった時、やはり最初はすごく大きな挑戦課題を与えてもらったなっていう感じでした。でもそのために必要な訓練というのはしてきました。さっきの海底の訓練だとか、冬山の訓練だとかですね。
リーダーはリーダーだけできる人じゃだめで、リーダーとフォロワーっていうか、チームの中である時はリーダーにもなれるし、ある時はフォロワーってリーダーについていく人になれないといけない。状況に応じて、例えば専門の実験をする時はその専門家がリーダーシップを発揮しなきゃいけないですし、船外活動するときは船長ではない人がリーダーシップを発揮してチームを率いていかなければなりません。

阿川 その時のプロジェクトによって。

若田 状況に応じてリーダーシップも取れるし、ついていく役割のフォロワーシップもとれるような、そういう訓練は冬山だとか海底だとか色々な所でやってきましたし、NASAの宇宙飛行士室の中でISSに行く仲間たちの管理職みたいな仕事をさせてもらったので、そういう経験が活かされたんじゃないかなと思います。

阿川 なめられないようにするためにはどうしたらいいんですか?

若田 自分をさらけ出すというか、押すとところは押す、引くところは引くっていうんですかね。やっぱり、直球勝負というのがいちばんいいと思いますね。自分に嘘はつけないと思いますし、自分をさらけ出して、相手に自分の良さも悪さもわかってもらうことが……。

阿川 弱みも?

若田 ええ。やはりチームの中で円滑なコミュニケーションを図っていく時にはとても大切じゃないかなと。

阿川 最初はこんな小さい日本人にリードされるのかと思ったけれども、なかなか良かったよといったメンバーの声とかあるんですか?

若田 いや、あんまり聞いてないですけれども(笑)。作業はうまくできたと思いますし、ハーモニーを大切にするっていうことが仲間にもわかってもらえたのかなって。僕も目指していくところもありましたね。だけど最初からハーモニーを求めるんじゃなくて、きちんと自分の意見を言って、そのチームとしての力を全部出しきれるような、そういう自由な意見交換できる雰囲気作りには努めました。

阿川 なるほどね、うかがいたいことが山のようにあるんですけど、そろそろまとめてくださいという合図が来たようですから、この後は佐々木監督もお招きして三者鼎談、というか私がお話をうかがうということで、よろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。